森さんにとってあの発言はごく自然だったのだろうと思う。企業弁護士である私は、過去の既成勢力に近い立場にいる方の発想として理解はできる。しかし、企業の現実は日々変化している。差別される側の立場を実感したことがないと、鈍感になってしまう。
牛島氏は検事、弁護士両方の経験を持つ。それらが「森さんや同じような立場の一部の企業人と違う感覚を与えてくれた」と振り返る。そのうえで森氏のような発言を許してしまう背景には、日本の組織にはびこる「忖度文化」があると指摘する。
上場企業で洗練された会社であれば、あのような発言をする人がリーダーであるはずがない。だが、上場企業の半分近くでこのような問題は起こりうると思う。口には出さずとも、森さんと同じ考え方をしている人はいるだろう。
あの発言の裏にあるのは、「男性でも忖度できない人がいると、議論に時間がかかって困る」という思考だ。この忖度文化は、政官界ほどではないが民間にもあり、そこで適者生存した人が社長などの経営トップに指名されてしまうことがあった。そして、その人が後継社長を決めてきた。
冒険する人は社長に選ばれにくい。その結果、日本はイノベーティブになれなかったのではないか。このままではバブル崩壊後の1990年代からの「失われた30年」が、40年、50年になりかねない。
この状況を変えるために取締役の独立性、多様性が重要だとし、「社外取締役中心の指名委員会が重要だ」と強調する。
多様性実現のカギを握る
多様性がイノベーションを生む源となる――。清明氏も、牛島氏と同じ考えだ。多様性には国籍、年齢、男女だけでなくLGBTQ(性的少数者)、その人が持つ経験や性格まで加味するべきだとする。
そして清明氏は、多様性を広めるうえでカギを握るのは「トップのコミットメント」だと話す。
日本企業では多様化がなかなか進まないといわれているが、経営陣が強い意志を持たないと。『ガバナンスの観点で外部から指摘が入るから』ではなく、自社の企業価値は何かという議論がまずあるべき。
国内外に波紋を広げた問題発言は、森氏の辞任で一応の収束を見つつある。だが、個人の性質に依るものを「女性」という性別に落とし込む偏見や、「女性の参加者を増やす場合は発言時間を制限すべき」などという差別発言が公の場でなぜなされたのか。その原因は五輪組織だけにあるわけではないだろう。
上場企業を中心にSDGs(持続可能な開発目標)やダイバーシティ(多様性)を掲げる動きが続いている。しかし、女性の活躍をとっても取り組むべき課題は山積している。一つひとつ向き合っていく必要がある。
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ひょうどう きか / Kika Hyodo
愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。
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おがた きんいち / Kinichi Ogata
「東洋経済ニュース編集部」の編集者兼記者。消費者金融業界の業界紙、『週刊エコノミスト』編集部を経て現職。「危ない金融商品」や「危うい投資」といったテーマを継続的に取材。好物はお好み焼きと丸ぼうろとなし。
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