リニア「水問題」新聞が報じない静岡県の大矛盾

県外流出する水量は年間変動幅のわずか0.5%

神座地区の河川流量は平均約19億立方メートルだが、年による変動幅はプラスマイナス9億立方メートル。つまり、水量の多い年は28億立方メートルだが、最も少ない年の流量は10億立方メートルとなってしまう計算である。

JR東海が第8回有識者会議に提示した大井川の水循環図(国土交通省提供)

沖教授は、大井川下流域の河川流量の変動幅約9億立方メートルに着目して、「トンネル掘削による県外流出量は(最大)500万立方メートルや300万立方メートルであり、非常に微々たる値だ。これを問題視するのであれば、静岡県は年に何億立方メートルも変動する水量をいかに押さえて、住民が安定して水を使えるように努力しているのか」など疑問を投げ掛け、県の姿勢を正した。

500万立方メートルは変動幅約9億立方メートルの0.55%と極めてわずかにすぎない。リニア工事による県外流出量は年間の変動幅に吸収されてしまう値である。県も、国や中電などの公表データを把握しているから、大井川下流域の豊富な水循環量を十分、承知しているはずだ。

県は利水安定化策に取り組んでいない

それにもかかわらず、川勝知事は「県外流出は水一滴でもまかりならぬ」と主張してきた。もし、500万立方メートルの流出だけでなく、「水一滴」にこだわるならば、県は変動幅約9億立方メートルもの水をコントロールするためにさまざまな対策を立てているはずだから、「具体的に示せ」と追及したのだ。県水利用課によれば、県は節水などを呼び掛けるだけで、沖教授に答えられるような利水安定対策に取り組んでいない。

静岡県は非常に微々たる値でしかない県外流出量を大きな問題にしている一方で、利水安定のための方策は何もやっていないのではないか、と沖教授は厳しく批判したのだ。

第1回有識者会議の席で、金子慎JR東海社長が「トンネル工事がどういう仕組みで被害を発生させるのか、専門的な知見から影響が起きる蓋然性(実際に起きるかどうかの確実性の度合い)がどの程度なのか示してほしい」など要望した。沖発言はまさに、リニア工事による下流域への影響はほとんどないという蓋然性を数字で説明したのだ。

今回の水循環図を詳しく見ると、リニア工事を行う上流域の井川ダムの河川流量は年約12億立方メートルで、こちらの年変動幅はプラスマイナス3億立方メートルと見積もっている。上流域で3億立方メートルもの変動幅があり、リニア工事による県外流出量を最大500万立方メートルとすれば、変動幅の1.66%にしかすぎない。リニア工事による微々たる県外流出量では、井川ダムの河川流量に影響を与えるのかどうかさえ実証できない。

また、上流域の井川ダムから下流域の神座までの中流域には、年約24億立方メートルもの降雨があり、中流域の河川流量は井川ダムの河川流量約12億立方メートルから、年平均で16億立方メートルも水量が増えていることが今回の水循環図で明らかになった。

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