リニア「水問題」新聞が報じない静岡県の大矛盾 県外流出する水量は年間変動幅のわずか0.5%

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下流域の川口発電所付近で実測される年約28億立方メートルの河川流量の大半は、リニア問題で議論される源流部ではなく、中流域に連なる標高2000m超の50座以上もある山々が生み出している。大井川下流域の水量の大半は、源流部ではなく、中流域の山々で生産されていることがわかった。

源流部で行われるリニア工事の影響は微々たるもので、年約24億立方メートル(プラスマイナス4億立方メートル)もある中流域の大量の降雨量に吸収されてしまい、湧水全量を戻すリニア工事が河川流量に与える影響はあまりにも小さいことは一目瞭然だ。

県は2018年8月2日作成のリニア資料で「水循環の状況(断面)」を示した。この水循環図では、源流部から下流域まで地下水路が続き、下流域で大量の地下水が湧出しているように見え、リニア工事が地下水路を遮断されるようなイメージを提供、下流域の住民らの不安をあおっていた。

2018年8月に静岡県が作成した「水循環の状況」図(静岡県提供)

このような水循環図を使い、県はトンネル掘削付近から約100kmも離れた下流域の地下水への影響を問題にした。JR東海は、リニアトンネル建設現場から下流域までさまざまな地層の分離があり、また、源流部の成分と下流域の地下水とは同位元素が違うことなどを説明、ようやく有識者会議で地下水への影響はほぼないという意見が認められた。

地下水使用量は利用可能量の半分

実際には、下流域の地下水への影響についても、県水利用課が作成した地下水の揚水量と利用可能量の実態調査で明らかだった。大井川地域の地下水利用可能量約2億1600万立方メートルに対して、地下水揚水量は約1億1200万立方メートルとほぼ半分しかないからだ。もし、地下水の利用可能量が1億立方メートルも減ることになれば大問題だが、現在の地下水使用量ではそんな事態が起きるはずもない。

大井川は上流部の井川ダム直下の奥泉ダムから、長島ダム、笹間川ダムなどを発電のために導水管で結んでいる。中流域の河川流量は非常に少ない。1987年の「水返せ」運動では、塩郷堰堤(15m以下のダム)の維持流量を毎秒3立方メートルとして、季節変動で毎秒5立方メートルの放流期間を設けることに成功した。

「大井川を再生する会」の久野孝史会長は「本来、河川に流れる水が導水管によってダムに運ばれているから、中流域の地下水の多くも消えてしまった。長島ダムができてから下流域の利水団体が水に困ったとは聞いていない。リニア静岡問題によって、大井川の河川維持流量を見直し、もっと多くの表流水を河川に流すきっかけとしてほしい」と話した。

つまり、リニア工事によって下流域の水資源が枯渇するというイメージばかりが先行しているが、金子社長が言う「蓋然性」を静岡県が重視すれば、問題解決の近道が見える。ところが、そもそもは静岡県とJR東海との間の「感情のもつれ」が底にある。実際は、沖教授の批判も、「蓋然性」とは無関係の「感情のもつれ」に対するものだったのかもしれない。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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