傲慢で自信過剰な中国は、大きな勘違いをしている--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 第二に中国が巨額のドルを保有していることは、パワーの真の源泉にはならない。中国が世界市場でドルの投げ売りを行えば、米国経済を屈服させることができるかもしれない。しかし、そうすれば中国にも影響が及ぶ。中国は保有ドルの価値を失うだけでなく、失業者の増大に直面することになるだろう。お互いの関係が均衡しているとき、ドル保有は力の源泉にはならないのだ。

三つ目に、米国の資本市場の洗練度合いを考慮すると、ドルは準備通貨の地位にとどまる公算が大きい。元の取引を完全に自由化し、金融制度を改革しないかぎり、中国は米国の資本市場に匹敵するマーケットは作れないはずだ。

最後に中国はトウ小平の知恵を無視する過ちを犯している。トウは中国に「能ある鷹はつめを隠すべきだ」と忠告している。あるアジアの政治家は「トウなら決してこうした過ちを犯すことはなかった」と語っていた。もしトウが今政権の座にいたら、きっと中国を09年初の米中協力関係に引き戻していたことだろう。

Joseph S.Nye,Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

(週刊東洋経済2010年4月17日特大号 写真:日本雑誌協会)

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