転職で「年収が下がる人、上がる人」決定的な差 業界ではなく「自分を売り出す市場」を意識せよ

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この「市場を定義する」というプロセスは、個人のキャリアを考える際も、まず最初に考えるべき「一丁目一番地」となります。

たとえば「年収を非連続に上げたい」と考えたとき、まっさきに検討すべきなのは「転職」ではありません。「自分を売り出していく市場」をしっかりと見定めていくことです。

市場選択の定石は、「1.規模が大きく、2.拡大を続けていて、かつ3.自分の能力が活かせる市場」を選ぶことです。

「自分を売り出していく市場」をしっかりと考えた結果、この3つの条件を満たす市場に打って出るに足る知識や経験をすでにもっているのであれば、言うことはありません。転職して収入が上がる可能性は高いと言えます。

「いま持っていないスキル」は転職では得られない

しかし、そんな知識や経験が足りない場合、転職するよりも社内でスキル開発に挑んだほうが圧倒的に有利です。転職ではその時点でのスキルが評価されるのに対し、社内の人材開発ではポテンシャルや希望を考慮してもらえるからです。

グローバル企業に勤めていた私が、海外にある本社のマーケティング部門の重役たちと接して驚いたのは、その人心掌握の巧みさです。たとえば、ある副社長は、一度か二度ミーティングで発言しただけの私の名前を恐らくその場でメモして覚えており、次の日、廊下ですれ違った際に名前で呼びかけてくれました。感動した私は、「この人のために頑張ろう!」とやる気に燃えて帰国するわけです。

いずれはグローバルCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の人材市場で勝負したいと考えていた私は、それまでマーケティングの知識や経験ばかりを追い求めていた自分の視野の狭さを痛感しました。将来大きなマーケティングチームを預かるためには、人心掌握をはじめ、大きな組織をマネジメントする知識・経験こそが必要だと気づいたのです。

しかし、そもそもチームマネジメントの経験すらない人に、いきなり大きな組織を任せてくれる転職先などありません。そうなると、今の職場でとことん貢献し、自分のキャリアプランや希望を伝え、まずは小さなチームを任せてもらうのが得策だと考えました。

実はその時点でのスキルや経験=マーケティングの専門知識を高く評価し、より高い給料で誘ってくれる企業もありました。しかし、そこで転職していたとしたら、自分が見据えているグローバルCMOという市場で必要とされる知識や経験は、もしかしたら永遠に身につかなかったかもしれません。

このように、自分を売り出していく市場を見定め、そこで必要とされる知識や経験を積み上げようとするのであれば、むしろ多くの場合、いまの仕事・いまの職場を前提にするほうが圧倒的に有利なのです。

年収を上げたいと考え、今の環境でそれが叶いそうになければ、頭をよぎるのは「転職」という選択肢でしょう。社会人のキャリアを支援するビジネスは、多くが転職の斡旋料や採用広告の広告料を収入源としているため、キャッチーな「年収アップ」というテーマでよく転職が取り沙汰されるのは自然なことです。

しかし、これまで述べてきたとおり、年収を上げるためにまず考えるべきは「自分を売り出していく市場を見定めること」なのです。

コロナ禍で企業の採用意欲は冷え込み、転職を考えていた人はキャリアプランの再考を余儀なくされているかもしれません。しかし、ほとんどの企業が変革を強いられるなか、多くの領域で新しいチャレンジの必然性が高まっているであろう今の職場に目を転ずれば、自分自身が未経験の領域に踏み出すチャンスはむしろ大きくなっているのではないでしょうか。

ならば、自分自身を売り出していく市場を見直すときは、今をおいてほかにありません

井上 大輔 マーケター、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業推進統括 プロダクト本部 新規事業開発統括部 統括部長

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いのうえ だいすけ / Daisuke Inoue

ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンでマネージャーを歴任。ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長、ソフトバンク株式会社 コンシューマ事業統括 コミュニケーション本部 メディア統括 部長を経て現職。WASEDA NEO「早稲田マーケティングカレッジ」並びに「『人生の可能性』を広げるビジネスパーソンのための本づくり講座」講師。

 

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