民主党が狙うトランプ前大統領の公職永久追放 弾劾裁判は無罪ほぼ確実も、プランBを実行か

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修正第14条第3項を通じ、議事堂乱入事件をめぐるトランプ氏の行為を裁くことは、民主党にとっては弾劾裁判をはるかに上回るメリットがある。弾劾裁判は前述の通り、政治的判断となり有罪評決はほぼ困難だ。司法機関である最高裁判所であれば、現状は保守寄りであるとはいえ、直接的には上院の議席数といった政治に影響されないため、民主党にとってはより望ましい結果となる確率が高まるとみられている。

2016年大統領選で民主党の副大統領候補であったティム・ケイン上院議員は共和党穏健派スーザン・コリンズ上院議員とともに1月末、問責決議でトランプ氏を罰する手法を訴えた。同決議には修正第14条第3項を含めていたのだが、注目されなかった。まだ、民主党は弾劾裁判での有罪評決獲得を目指していたので、タイミングが早すぎた。民主党内からも、問責決議は支持を得られず両議員はすぐに断念することとなった。

だが、近々、この問責決議は再び脚光を浴びることになるかもしれない。2月8日、ケイン上院議員は修正第14条第3項を含む問責決議について「オプションとして残されている」と語り、弾劾裁判でトランプ氏の無罪評決が下された後、同氏の責任を引き続き追及する議員の間で注目が集まる可能性も示唆した。

弾劾裁判後も民主党はトランプ追及を継続か

弾劾裁判は不発に終わる公算が大きく、無罪評決はむしろトランプの主張に正当性を与えてしまう可能性がある。それゆえに、より確実な修正第14条第3項でトランプ氏を追及するよう党内からの圧力が強まれば、民主党指導部も動かざるをえないであろう。その場合、コロナ追加経済対策や閣僚の指名承認など緊急を要する審議を進めるのと同時並行で、民主党はトランプ氏追及を継続するかもしれない。すでに民主党系団体は2月初旬、修正第14条第3項の利用を議員に要請するため民主党支持者の署名集めを始めている。

またエール大学、ハーバード大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、カリフォルニア大学バークレー校などの法科大学院のアメリカを代表する憲法学者が修正第14条第3項について民主党に助言しているという。弾劾裁判というプランAが不発でも、民主党は水面下でプランBの準備を進めているようだ。

仮に2024年大統領選へのトランプ氏の出馬が阻止された場合、共和党内で繰り広げられている穏健派とトランプ派の間の戦況は一変するであろう。だが、出馬阻止によりトランプ氏の党内影響力は低下するのか、あるいは殉教者と見なされ、ますます党内の影響力が増すのかは未知数だ。南北戦争で反乱を指揮したアメリカ連合国(南部連合)のジェファーソン・デイビス元大統領と同様にトランプ氏も公職永久追放で罰せられるのであろうか。いずれにしても弾劾裁判後の民主党の判断が、ポスト・トランプ時代のアメリカ政治を大きく左右するに違いない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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