政府創設「10兆円」大学ファンドの悩ましい課題 超低金利で苦難の船出、安定運用?収益性?
ファンドの資産構成割合など運用の基本的な考え方は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に設置する「資産運用ワーキンググループ」で検討する。元本4.5兆円分は予算計上されており、21年度中に運用を開始。早期に10兆円まで積み増し、23年度には運用益による大学支援を開始する予定だ。
安宅教授は、大学ファンドが収益率7%を上げることを念頭に、「運用益から毎年数千億円ずつ予算を出していって、20年後に20兆円、40年後に40兆円、60年後に80兆円規模になる」と試算。「ハーバードのような運営をするなら、60年後には基金は数百兆円になっているはず」と期待を膨らませる。高等教育運営のための基金創設は、「初代文部大臣の森有礼さんのころからの悲願」だとも述べた。
日本は希少な才能と情熱の多くをドブに捨てている
一方、萩生田光一文部科学相は先月の参院文部科学委員会で、「背伸びをして3%というターゲットを決めるのではなく、たとえ低くても安定的にきちんと毎年計画的に大学や博士課程に資金が供給できる仕組みを作っていく」と保守的な姿勢を示した。
麻生太郎財務相も9日の閣議後会見で、「金を持たしたら必ずもうかるというのは大きな間違い」と指摘。所管省庁には「短期的な市場動向よりも長期的な観点からリスクをきちんと抑制しつつ、収益を得る確実な方法を考えてもらわなければならない」と述べた。
大学ファンド創設の背景には、科学技術という観点での国力低下という危機感がある。科学技術関連予算が米国の4分の1、中国の7分の1となる中、1990年代に世界4位だった引用数などを基準にした上位10%論文数は11位に低下。新幹線やウォークマン、音楽用コンパクトディスク(CD)といったイノベーションがもたらしてきた日本の存在感が過去20年で薄れ、日本企業は時価総額上位から脱落した。
慶応大の安宅教授は、「真に異質な科学技術競争が起きているときに、日本は乗り遅れているばかりか、希少な才能と情熱の多くを大切に育てることなくドブに捨てている」と批判。国力に見合った資金を投下することで、「技術的プレゼンスを持ったプレイヤーが現れ、論文のプレゼンスも上がっていかないと、日本に国力に見合う新しい富はやってこない」と危機感を示した。
(麻生財務相のコメントを入れて更新します)
著者:占部絵美、竹生悠子
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