スーチー氏拘束にロヒンギャが「歓喜」する事情 ミャンマー人の間には彼らへの「不公平感」も

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こうした、ミャンマー市民とロヒンギャの間の受け止めの格差は、簡単には説明できない複雑な背景の上に存在している。仏教徒が多数派で、国民の約9割をも占めるミャンマー。西部ラカイン州の少数派イスラム教徒ロヒンギャに対する迫害で国際社会の非難を浴びており、隣国バングラデシュに逃れた70万人以上のロヒンギャ難民の帰還のめどはいまだ立っていない現状は日本でも盛んに報じられてきたところだ。

しかし、大前提として、日本国内はもちろん世界において“ロヒンギャ問題”として報じられるラカイン州に暮らすイスラム系の少数民族ロヒンギャに対する認識は、ミャンマー国内ではまったくと言っていいほど異なる。ロヒンギャに関してミャンマーで取材を行うと、まずミャンマー国内では“ロヒンギャ”という言葉は使わず、“ラカイン・イシュー”、つまりラカイン州の問題などと呼んでいることに気付かされる。

ミャンマー人がロヒンギャを「ベンガル人」と呼ぶ訳

さらに、ミャンマー人はロヒンギャを「ベンガル人」と呼ぶ。ベンガルとは主にバングラデシュとインドの西ベンガル州など一部を指しており、ミャンマー人にとってロヒンギャは隣接するバングラデシュからの不法移民、その存在は認めていないのだ。リベラルな知識層に話を聞いても、ロヒンギャに関しては途端に口をつぐむか、もしくは西欧諸国の一方的な報じ方に厳しく批判を述べる場合すらある。

その背景として、国際社会では国軍や過激派仏教徒によるロヒンギャ弾圧が指摘される一方、ロヒンギャ側の過激な”武装勢力”の存在がクローズアップされることがあまりないことが挙げられる。

ロヒンギャの武装勢力――その名は「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)だ。ロヒンギャ市民多数派の支持を受けているわけではないものの、2017年8月に、武装勢力を中心にラカイン州で警察や治安部隊などへの襲撃を仕掛け、警察官らを殺害。その後の軍部の激しい弾圧、ロヒンギャ難民のバングラデシュへの殺到を招く事態の引き金となり、国軍は武装組織の掃討を名目として、大規模な攻撃を仕掛けたとされている。

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