ワクチン接種で発症「アナフィラキシー」の正体 「接種後の待機」について具体的に議論すべきだ

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最も権威ある医学誌『The New England Journal of Medicine』は、mRNAワクチンは今回世界で初めて実用化されたため、アレルギーの可能性やメカニズムについては過去に1つも報告がないとしている。

ただ、高分子量のPEGを含む薬剤では、アナフィラキシー報告があるという。例えば、手術前の腸管の洗浄剤や、心臓のエコー検査の造影剤などだ。有効成分よりもPEGが誘因の可能性が高いとされている。

なお、アストラゼネカ製ワクチンは、mRNAワクチンではない。ヒトに対して病原性のないウイルスを運び手とし、新型コロナウイルスの遺伝子を一部組み込んで投与する「ウイルスベクターワクチン」だ。体は新型コロナウイルスが侵入したと誤認し、免疫システムを発動させて抗体等を作り始める仕組みである。

ウイルスベクターワクチンは、これまでエボラウイルスに対するものしか実用化されていない。また、アストラゼネカ製の新型コロナワクチンについては、有効率が平均70%、高齢者への効果はさらに低いとの疑問も上がっている。それでも先の通りPEGを含まずアナフィラキシーの心配が少ないと見られることや、超冷凍保管が不要であることなどから、待ち望む声はある。

今こそ「ワクチン副反応報告システム」整備を

mRNAワクチンは短期間に量産が可能なため、今後は他の感染症のワクチンでも導入されていく見通しだ。やはりPEGが使われるなら、ワクチン接種後のアナフィラキシーは、新型コロナワクチンに限った話ではない。

“PEG犯人説”は現段階ではあくまで仮説なので、今後の検証が必要だ。もしそうだとしてもmRNAワクチンにとって不可避の添加物であるならば、アナフィラキシーの可能性を前提に対応していくしかない。また、同じ機能を持ち、同じく毒性の低いPEG以外の物質に切り替えたとしても、異物を体内に入れる以上、アレルギーの心配がゼロになることはないだろう。

むしろ、どんな人がどの程度ハイリスクなのか、より精緻に明らかにしていくことが求められる。

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リスクや接種の可否の判断には、データの蓄積と情報共有が必須だ。しかし今、自治体に丸投げされた接種管理の準備現場は、大きな混乱状態にある。開始後、ワクチンを供給する製薬会社が有害事象や副反応の報告を集め、当局に提出することになっている。集団接種で実施した場合の報告責任者は誰か?などすべてがイレギュラーの新型コロナウイルスワクチン接種では、混乱は必至だ。

本来なら、アメリカのようなワクチン副反応報告システム「VAERS」を並行して、接種を受けた人が自ら報告を上げやすく、システムを整備していく必要がある。将来にわたってワクチンによる被害者を減らし、誰もが安心して接種に臨める体制を望むなら、なおざりにしてはならない。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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