三越伊勢丹が「ネット接客」を本気で進める事情 プロの販売員のアドバイスで差別化できるか

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オンライン接客がうまく普及すれば顧客の裾野が広がる期待もある。例えば、近隣に百貨店がない地方居住者や若年層など従来取り込めていなかった顧客層との接点拡大だ。

首都圏にある三越伊勢丹の旗艦3店(伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、三越銀座店)では、40~60代が主要な顧客層。一方、アプリ利用者では30~50代がメインと一回り若返り、20代の利用も増えているという。とくに20~30代では百貨店で買い物をしたことがない人が多い。若年層はデジタルサービスの利用に抵抗感がないため、百貨店で買い物をするエントリーツールとして期待される。

ただ、アプリの宣伝活動をほとんどしていないこともあり、現状のダウンロード数は数千件で利用者の大半が既存の店頭顧客だという。今後はSNSを活用したマーケティングなどで若年層へのアプローチを積極化する。オンライン接客の利用は一般的なECより心理的なハードルが上がるだけに、新規顧客が入ってきやすいサービスをいかに構築できるかが重要になる。

百貨店の活性化の一助となるか

近年、とくに地方都市の百貨店は閉店が相次いでおり、買い物を楽しむ“行き場”を失った百貨店ファンは一定程度存在するはずだ。地方の富裕層の中には東京の百貨店店舗まで出掛けて買い物を楽しむ人もいるが、コロナ禍ではそれも簡単ではなくなった。オンライン接客の認知度を高めることで、そうした人たちとのニーズをいくらか満たせるかもしれない。

オンライン接客で顧客と会話することで、「なぜこの商品を買ったのか」といったことも分かる。三部氏は今後の方向性について、「例えば、お孫さんのお祝いのためなら、家族構成など生活背景がわかってくる。こうした情報も顧客IDと紐付けてデータ化し、最適なタイミングで次の商品レコメンドにつなげられる仕組みを作っていきたい」と語る。

百貨店は従来、店頭での販売にこだわり、ネットの活用に積極的ではなかったが、コロナ禍で潮目は大きく変わりつつある。百貨店の強みである「質の高い対面接客」をオンライン上でも実現し、既存の顧客とのつながりを維持するだけでなく、新たな顧客層の開拓につなげられるか。長期低迷が続く百貨店市場の活性化を図る上で大きな試金石となりそうだ。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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