韓国慰安婦判決は外交成果を全面否定している

日韓関係は危機的でも文在寅大統領は沈黙

また主権免除に関しては、元イタリア兵がドイツ政府を相手に賠償請求した訴訟でイタリアの最高裁がドイツの主権免除を否定し、賠償を認めた判決がしばしば引用されている。この判決は国際司法裁判所(ICJ)に持ち込まれ、2012年にイタリアの主張が完全に否定され、ドイツの主権免除が認められた。

ICJの判断は、軍などの国家機関が武力紛争などの際に他国の領域内で違法行為を行っても、訴訟手続きで主権免除は認められるとしている。さらに、主権免除は特定の行為が合法か違法かは扱わず、強行規範の原則とは異なる事象を扱っているため両者は矛盾しないとしている。

つまり、ある国の行為が強行規範に反する重大な反人道的行為であることと、主権免除の是非は別の話であるというのだ。

揺らぐ国際関係の安定性

ソウル地裁の判決は、慰安婦問題が反人道的行為であり強行規範に反するから主権免除を適用できないとしている。このあたりの理屈は独自の解釈と言えるが、判決は「主権免除の理論は恒久的、固定的な価値ではなく、国際秩序の変動で継続的に修正されている」と言及し、自らの解釈を正当化している。

だが、各国が国際法を都合よく解釈して判決を出したのでは、法秩序の安定性のみならず国際関係の安定性も揺らぐことになるのではないか。

判決についてもう1つ指摘しておきたいのは、司法と行政の関係だ。

判決文の全文が入手できていないため詳細はわからないが、判決が戦後、日韓両国政府が外交交渉などで積み上げてきた成果である日韓基本条約や請求権協定、慰安婦に関する日韓間の合意とそれに伴う10億円の拠出、さらには日本の歴代政権の謝罪、アジア女性基金設立と償い金の支給などの取り組みを、肯定的に評価していないことは明らかである。

植民地支配が合法か違法かなど、根本的なところで日韓両国の見解は対立している。だからと言って国交を正常化しないわけにはいかない。そこで両国が政治的な譲歩や妥協を重ねて、今日まで外交関係を維持発展させてきた。

ところが、判決はこうした両国政府の実績を根本的に否定している。三権分立という権力分散システムのもと、司法の独立が確立した制度では司法と行政の間に緊張が生まれることは必然的なことであろう。

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