新幹線「N700S」、JR東海と西で違う車両価格の謎 開発費用やスケールメリットの違いが要因に

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では、九州新幹線に導入されるN700Sの価格はどのくらいになるのか。JR九州は公表していないので推測になるが、2004年にデビューした同じく6両編成の「800系」の価格は1両当たり3億円だった。1編成当たりに直せば18億円だ。

JR九州の800系。700系をベースに開発された(写真:tarousite/PIXTA)

800系は700系をベースに開発され、9編成54両が製造された。16両編成の700系の価格は40億円なので1両当たり2億5000万円ということになる。800系の価格は700系よりも5000万円高いが、新たな先頭形状の採用などの開発費に加えて、九州新幹線は急勾配区間があるため、パワーアップのためにすべての車両にモーターを付けているといった要因がある。

現在発表されている九州新幹線用N700Sのイメージは、カラーリングを除けば東海道・山陽新幹線用N700Sとほぼ同じで、800系のような大胆な開発は想定されていない。さらに、どのような編成長にも対応できるという特徴を活かせば価格を抑えられる可能性はある。

N700Sは海外でも走るのか

N700Sは海外でも走る可能性がある。その最右翼はダラス―ヒューストン間を結ぶテキサス高速鉄道。日本の新幹線方式を前提に計画が進んでおり、運営会社のテキサスセントラル(TC)が発表している車両のイメージはN700Sそのものだ。

アメリカの鉄道の安全基準は日本と異なるため、本来なら新幹線がそのまま走ることはできない。しかし、アメリカの連邦鉄道局がテキサス高速鉄道に特化した安全基準を策定し、昨年3月に公表した。

問題は200億ドル(約2兆1000億円)の事業費だ。サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶカリフォルニアの高速鉄道は資金難から計画が大幅に後退している。テキサス高速鉄道は主に民間から資金を調達する計画だが、政府の支援も不可欠だ。

そこに追い風となりそうなのが、新たに誕生したバイデン政権である。2020年10月5日付記事(テキサス新幹線、実現の鍵は「バイデン大統領」)にあるとおり、バイデン大統領は高速鉄道計画の推進を公約に掲げている。バイデン氏自身も上院議員時代には鉄道でワシントンDCに通勤していたという鉄道好きとして知られる。

もう1つの可能性は台湾だ。東海道・山陽新幹線「700系」をベースに設計変更した車両が走っている台湾の高速鉄道では、運営会社の台湾高速鉄路(高鉄)が新型車両の選定に関する検討を続けている。新型車両はN700Sをベースに開発されるというのが順当な見方だが、1月23日付記事(急展開、台湾新幹線「国際入札」打ち切りの裏側)では、メーカーの提示価格が高すぎて高鉄が入札を打ち切った状況が報じられた。

新幹線の性能を語るうえで、コストという側面はどうしても無視できないようだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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