地上波は対応予定なし、4K放送普及の難題 推進する総務省と放送局の間には温度差

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というのも、同社は5月に東経124/128度CS放送で標準画質のサービスを終了し、ハイビジョンに移行したばかり。しかも、サービスを移行した契約数約2・7万件に対し、解約数は25・8万件となった(いずれも5月単月)。ハイビジョンを視聴するには、専用チューナーを新たに準備する必要がある。スカパーJSAT広報部は「移行を忘れていたり、連絡が取れなかったりした利用者も多い」と説明するが、ハイビジョン化によるコスト増に合わせて値上げしたこともあり、顧客離れが起こったのも確かだ。

スカパーが4Kサービスを提供する場合、より高い価格に設定する可能性が大きい。今以上の料金を支払ってでも高画質を求める契約者がどれほどいるのか不透明だ。当面は自社で始めるよりも、次世代放送推進フォーラムや今後4K放送を始める放送局にインフラを貸し出し、収入を得る方向に動いている。

高画質化以外のメリットが見えず

もう一つの転送経路であるケーブルテレビでは、最大手のジュピターテレコム(JCOM)が、4Kの試験放送を始めた。ただ、見られるのは同社の販売店の店頭のみ。家庭での視聴に必要なチューナーは16年までに投入することを検討している。見たい時に番組を選んで試聴できるビデオオンデマンド(VOD)方式での試験サービスについては今夏から始める。

6月2日の試験放送開始後、総務省には視聴者から「4Kの本放送が開始されたら、またテレビの買い替えが必要になるのか」との問い合わせが増えた。4Kの本放送が始まっても、地デジから完全移行する予定はない。

消費者にとって、4Kは高画質になる以外のメリットが見えにくいのが現状だ。放送局も乗り気ではない中、税金を突っ込んで推進する理由は何か。総務省はきちんと説明する必要がある。

週刊東洋経済2014年6月21号〈6月16日発売〉掲載の「核心リポート02」を転載)

中原 美絵子 フリーライター

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なかはら みえこ / Mieko Nakahara

金融業界を経て、2003年から2022年3月まで東洋経済新報社の契約記者として『会社四季報』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』等で執筆、編集。契約記者中は、放送、広告、音楽、スポーツアパレル業界など担当。

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