京王百貨店「駅弁大会」開催を決断した舞台裏 例年とは異なり、鉄道業界を盛り上げる企画へ

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とはいえ、全国にちらばっている調製元の反応は芳しいとは言えなかった。東京はコロナの感染者が多い。ただでさえ観光客が減って駅弁の売り上げが落ちているのに、調製元の社員が東京に行ったことが知られると風評被害で地元での売り上げも減ってしまうかもしれない。そのほかにこんな声も相次いだ。「実はね、売り上げが落ちすぎていて、それを見かねた社員たちが自ら引退しちゃって人手がないのよ」「今年は空輸の便が少ないから輸送駅弁も難しいよね」

この新型コロナで鉄道需要が減ったいま、どこの調製元も苦しい思いをしている。それがわかるだけに無理強いはできない。

しかし、口ではそう言いながらも、駅弁甲子園という異名を持つ本大会に出場し続けている名門調製元の駅弁作りへの自負と、京王との長年の結びつきはだてではなかった。

堀江氏に温かい代案が届いた。「わかった。その代わり大会限定駅弁・新作でなくてもいいかい」「今まで通り1日1000個ってわけにはいかないけど、限定300個ぐらいなら頑張れるかもしれない」 。

今までは新作や限定販売の駅弁を並べて、それを目玉にすることも多かった。しかし、新作を作ることは一般的に思うよりもはるかに難しい。普段とは違う食材を調達するルートを確保したうえで、新しいパッケージや調理方法も開発しなければいけない。今までの経験知もいかせない。今はそのリスクを負う体力がない。

この恩は「駅弁大会」で返す

「もちろん新作は不要です。ありがとうございます!」

昔の駅弁大会のチラシ(筆者撮影)

堀江氏は頭をさげた。感謝しかなかった。この時期に参加していただけるだけでありがたい。約2週間の開催期間中、地元から離れて東京の京王百貨店にスタッフを割いてもらう、もともと苦しいやりくりで人の手配をしている調製元が多い。その負担は新宿にいてもわかる。

逆に規模が大きい調製元では全行程をひとりでできる職人さんが少ない。百貨店で実演販売をしてもらうということの難しさを痛感する。

しかも地元に帰ったら現場にすぐ復帰せず、自主的に2週間隔離をするという話も聞いている。 大事な職人さんに都合1カ月にわたる月日を駅弁大会に費やしてもらうことになる。この恩は駅弁大会で返すしかない。

企画を決めると同時に、安全の確保も行った。新型コロナウイルスからお客様と、協力してくれている全国の調製元と京王の社員を守るのだ。

とくに京王百貨店はご年配のお客様が多い。「駅弁大会第1回目から皆勤賞で通ってくださっているお客様もいらっしゃいます」というのだ。

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