運転士38人が感染「大江戸線減便」が示す深刻度 同線担当の15%、人員不足で運行本数7割程度に

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感染経路について、都交通局は「現時点で保健所からの見解が示されていないため不明」とする。ただ、大江戸線に2つある乗務区のうち、感染者は清澄乗務区所属の職員だけに集中していることから、職場内で広がった可能性が高そうだ。運転席は客室と隔離され、乗務員はマスクを着用していることから、乗客は濃厚接触者の定義には当てはまらないとしている。

清澄乗務区には休憩室や更衣室、浴室のほか、泊まり勤務の職員が使う「仮泊室」などがあり、仮泊室は個室だという。都交通局は感染確認後にロッカーや休憩室の消毒を行ったほか、12月23~24日に同乗務区庁舎の一斉消毒清掃を実施した。また、感染対策の強化として「局内の全職場に対して、改めて常時マスク着用や手指消毒の徹底を図るとともに、休憩室などの消毒や仕切り板の追加設置を行った」(広報担当者)という。

減便で大江戸線は朝夕のラッシュ時を中心に混雑が激しくなっており、1月4日から8日まで始発~10時、17時~終電までの間は他路線への振り替え輸送を行っている。3日時点で11人が職場復帰しているほか、7日までに同乗務区で新たな感染確認はなく、今のところ減便は11日までの予定だ。

運転士は簡単に交代できない

鉄道事業者にとって、乗務員への感染拡大は列車の運行に影響する深刻な事態だ。ある鉄道関係者は「欠勤者が出たからといって、運転士は別路線や別の職場からすぐ交代できるものではない。乗務の現場で感染が多発したら厳しい」と話す。

感染症拡大による鉄道運行への影響は、国土交通省が2014年にまとめた「公共交通機関における新型インフルエンザ等対策に関する調査研究」でも触れられている。同研究の報告書によると、乗務員の欠勤率が1割程度となったとき、平日ダイヤを維持できないとする鉄道事業者は調査に回答した20事業者のうち13者と半数以上を占めた。

東京メトロの車内抗ウイルス加工の様子(記者撮影)

鉄道各社は車内の「窓開け」や消毒・抗菌加工など乗客向けの感染抑止策を進めるとともに、乗務員らが使用する施設の対策にも神経をとがらせる。

例えば東急電鉄の場合、泊まり勤務は基本的に個室だが、複数人で就寝する場合はパーティションやカーテンで仕切ったうえでマスクを着用し、寝室のドア開けや扇風機による換気を行っているという。食堂も向かい合って座れないよういすの配置を変え、食事中の会話は禁止だ。ほかにも「食事スペースとして会議室なども開放し『密』を避けるようにしている」(東京メトロ)など、各社は可能な範囲で知恵を絞る。また、「現場の意識の高さに支えられている」(ある鉄道会社社員)部分も大きいようだ。

足元では全国の1日当たりコロナ感染確認者数の増加に衰えが見えない状況だ。今回の大江戸線減便は、感染拡大が日常生活を支えるライフラインの維持に直接影響しつつあることを示している。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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