日本が世界で躍進したのに今に繋がってない訳 持続的な発展の基盤が作られたかどうかは疑問
それに対して日本の場合には、政府が官営工場を作り、それを民間に払い下げたので、民間が株式会社を設立して市場から資金調達をする必要がありませんでした。巨額の資本を必要とする産業化が、比較的容易に達成されたことになります。
もう1つの重要な国家関与は、教育機関の整備です。日本の教育制度は、江戸時代から高水準でした。明治時代に急成長できた大きな理由がここにあります。ただし、一般庶民が行けるのは寺子屋までで、藩の高等教育機関は藩士の子弟のみに開かれた教育機関でした。
高等教育も含めてすべての教育の機会が国民に開かれたのは、明治になってからです。まず、1872年に発布された「学制」によって義務教育制が導入され、1886年の「小学校令」で、義務教育期間が4年とされました。そして、1907年の改正で尋常小学校の年限が6年になりました。
欧米では私立学校の学費は高額です(成績が優秀であれば奨学金を獲得できますが、全員が得られるわけではありません)。それに対して日本では、公立の基礎教育が無料とされたので、すべての国民がその恩恵に浴することができました。貧しい家庭に生まれても、基礎教育の段階で能力を示すことができれば、さらに高度な教育を受けられるチャンスが開けます。明治政府は、高等教育の段階でも、国立、公立の教育機関を整備しました。こうして、江戸時代までの身分制の軛(くびき)からの解放が実現され、能力のある人材の発掘が可能になりました。
日本の軍の学校は能力のみで選抜
私がとくに注目したいのは、軍の学校です。ヨーロッパの士官学校は主として貴族の子弟が入学するものですが、日本では出身階級によらず、能力のみで選抜を行ないました。経済的な理由で旧制高校などの上級学校に進学できない家庭の子弟にとって、授業料なしで高等教育を受けられる海軍兵学校と陸軍士官学校は、憧れの的でした。
これは、ヨーロッパにおけるカトリック修道院が果たした役割と似ています。ヨーロッパの大学は特権階級のものですが、修道院は、スタンダールの小説『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルのように、下層階級の子弟でも、能力があれば入れたのです。
岩田豊雄(獅子文六)の小説に『海軍』があります。ともに海軍兵学校に憧れて入学を目指した2人の少年の物語です。東京大空襲で戦前の本は全てなくなってしまっていた我が家に、不思議なことにこの本がありました。小学生の私はそれを読んで、もう地上に存在しない「海兵」に憧れたのです。
大人になってから、広島に用事があった時に、2度ほど江田島を訪れたことがあります。私は軍国主義教育を賛美しようという気持ちは毛頭ありませんが、江田島の校舎の単純な美しさに感嘆せざるをえませんでした。
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