それにしても父はなぜ、その日を選んだのか? まったく理解できないからこそ、つらかったといいます。
高校を出ると、彼女は奨学金を受けて大学に進学します。一見自分の選択のようですが、実はこのときも彼女は自分の気持ちを押し殺していました。
「兄は大学や予備校、さらに施設に入るお金も全部(親に)出してもらっている。そうしたら絶対に、私にお金を出す余裕がないのはわかるんです。『あなたには出さない』と言われたわけではないけれど、でも予備校や大学に行けないのはわかっているから、全額奨学金で進学しました」
親はおそらく、「娘が自分で決めたこと」と思っているのかもしれません。
「小さいときからずっと『あなたなら一人でできるでしょ』みたいな雰囲気はずっとありました。私ならなんとかするだろう、という親の甘えが。納得できませんでしたけど、そこにどっぷり向き合うと自分の精神状態がおかしくなるのはわかっていたので、見て見ぬふりを続けていました。考えないようにして、なかったことにして。
就職してからは仕事も忙しかったし、ふつうに生活していました。でも何か月に一度か、昔のことを思い出して寝られなくなったり、ずっと泣いていたりすることはあって。時期を過ぎれば戻るから、もう一生私はこうなんだろうな、と思っていました。病院でもらった安定剤を、ときどき飲んだりして」
由芽さんはこの頃一度、病院を訪れたものの「先生が最悪」だったため、以来つい数年前まで、医者に自分の話をすることは一切なかったそう。当時は、症状を伝えて薬をもらうことだけを繰り返していたということです。
兄の再犯に「すべてが崩れた」
「すべてが崩れた」のは、今から2年前でした。兄がまた捕まって、今度はついに刑務所に入ったのです。大学を出てから由芽さんは一人暮らしをしていましたが、あるとき実家に帰ったところ兄がおらず、家じゅうを探し回ったところ裁判所から届いた書類が見つかりました。仕事から帰ってきた母に確認すると、「ごめんね」と言われたそう。
それでもまた問題にフタをして、今まで通りにやり過ごすつもりだったのですが、しかし今回はそれができませんでした。当時、由芽さんは職場でも異動をしたばかりで、新しい業務は非常にハードなものでした。仕事のストレスも重なったのでしょう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら