戦国武将がひっそり食べた「牛肉料理」の正体

歴史小説家が資料をもとに当時の食事を再現

案外ゆるかった肉食タブーのなかで、牛肉食だけは例外的に厳格だった戦国日本だが、大航海の波に乗ってやってきた西欧文明、とくに宣教師が携えるキリスト教と濃厚に接触するようになると、その影響を受けてタブーを破ってみようとするものも現れる。

『細川家御家譜』によると、1590年の小田原の陣の際、蒲生氏郷と細川忠興が、高山右近の陣所を訪れると、右近はキリシタン大名だったので、牛肉をふるまってくれた、とある。その味がすごく珍しかったので、2人は右近のもとを牛肉料理を目当てにたびたび訪れるようになったという。

有名なエピソードなので、知っている人もいるかもしれない。氏郷と忠興が近江出身のため、近江牛を紹介する書籍や記事では、この逸話を起源として持ってきているところも多い。しかし、どう料理をしたかの具体的なことはまったく書かれていない。

煮たのか、焼いたのか? すべて謎である。100パーセント確実なことは言えず、記録から推理していくほかないが、右近がキリシタンだったことを踏まえて、まずキリスト教の記録からあたってみよう。

パエリアに似たポルトガル料理「アロス・コム・ワカ」

1557年にポルトガルの宣教師が牛肉料理をふるまったという記録がある。畜産研究者の松尾雄二は、この料理を、ポルトガルの「アロス・コム・ワカ」に近いものではないかと推測している。

アロスは飯、ワカは牛なので、要は牛飯である。作り方は薄切りの牛肉の赤身に塩、こしょうをして油で炒め皿に取り、鍋にオリーブ油を入れ、たっぷりのニンニクと洗った米を炒め、サフランで黄色く色をつけた湯を加えて炊き、あとで牛肉を入れて蒸すということなので、パエリアに似ている。

松尾によると、大分の郷土料理「黄飯」の原形がこの料理ではないかという。「黄飯」はサフランではなく、クチナシで黄色に染めたもので、キリシタン大名の大友宗麟が治めた豊後、細川忠興が治めた豊前小倉藩(豊後国東、早見を含む)の一部に伝わる。右近がふるまった牛肉料理がアロス・コム・ワカで、忠興が豊前小倉に転封された際、レシピも一緒に持ち込んだと考えれば、話の辻褄はあう。

小田原の陣で3人の戦国大名が食べたのは、この料理だったのか。有力候補の1つではある。しかし、他の可能性はないだろうか? 例えば、現在のすき焼きのように、他の具材とともに煮込んだという可能性である。

1613年に日本に派遣された平戸イギリス商館長であったリチャード・コックスは、その日記において、領主・松浦鎮信に「葱と蕪青とを入れて煮たイギリス牛肉の一片」や「胡椒をかけたイギリスの牛肉二片」を送ったと書いている。

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