"NHK顔"の勝利? 「あさイチ」独走のワケ 視聴率3倍増の背景に、ダイバーシティ戦略

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3つ目は、扱うトピックです。「セックスレス」「オンナの股関節ケア」「我慢の限界! 夫との会話」など、特集部分は完全に女性目線で番組が作られています。そのほかの部分は、地方中継や料理など、けっこう前番組から踏襲していますから、圧倒的に刷新されたのがこの特集部分です。番組へ寄せられるファックスはほとんどが女性からで、女性視聴者の囲い込みに成功しているのがわかります。

本気のダイバーシティが、テレビを変える

徹底した顧客主義を成功させたのが、この番組を立ち上げた制作スタッフのダイバーシティ戦略です。この番組のスタッフの半数は女性であり、民放出身の制作会社のスタッフも多くいると聞きます。

どうやったら視聴率を上げられるのか。その目標に向かって多彩な意見を取り入れた結果が、「あさイチ」の成功につながっているのです。女性スタッフが興味がないと言ったトピックは取り上げないし、演出のテイストが明るく華やかになったのは、外部スタッフの意見を積極的に取り入れたからだとのことです。

「あさイチ」の改革は、アメリカのABC放送の番組改革ととても似ています。アメリカの朝のモーニングショーはABC、NBC、CBSという3大ネットワークがしのぎを削っていましたが、16年間にわたってずっとNBCが視聴者数1位でした。

ABCは女性のアン・スウィーニー氏が2004年にトップに就任してから、編成と制作の大改革を進めてきましたが、朝の“グッドモーニングアメリカ”をはじめ、ニュース・情報番組では苦戦していました。そこで、スウィーニー氏が2010年に、エグゼクティブ・プロデューサーだったベン・シャーウッド氏をABCニュースのトップに抜擢し、モーニングショー改革を行ったところ視聴者数が増えつづけ、その年にNBCを逆転しました。

ABCが徹底的に重視したのも女性目線。視聴者を完全に女性に絞り、番組を刷新したことによって今では“グッドモーニングアメリカ”はNBCの“トゥデイ”を抜いて、視聴率・視聴者数ともにトップを独走しています。

ダイバーシティ、ダイバーシティと連呼される昨今、「あさイチ」は最もわかりやすいダイバーシティ戦略の成功例だと言えます。民放の情報番組の多くは男性目線で作られていますから、「あさイチ」に女性視聴者を持っていかれるのは必然なのかもしれません。もちろん、ダイバーシティ戦略を成功させるには、女性を重要なポジションに登用する「男性」が必要なのは、言うまでもありません。

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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