JR東「新幹線オフィス」開始、将来は専用車両も KDDIと組み、来年からテレワークの実証実験

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こんな疑問に対して、JR東日本の担当者は「違います」と言い切った。成田エクスプレスを活用したテレワークオフィスは、利用者低迷で余剰となっている車両の有効活用、同社が展開している個室ブース型シェアオフィス「STATION WORK(ステーションワーク)」のPRといった意味合いがあった。これに対して、新幹線をテレワークオフィスとして活用する構想は、KDDIとの共同事業という異なる性格を持つ。

JR東日本が「成田エクスプレス」の車両を使って11月27~28日に実施したテレワークの実証実験(編集部撮影)

実は、この構想は、JR東日本とKDDIが12月15日に発表した「空間自在プロジェクト」の一環である。JR東日本が2024年の街開きを目標に進めている品川開発プロジェクトを中核として、JR東日本とKDDIと共同で分散型スマートシティに関する共同事業を行うというものだ。

高輪ゲートウェイ駅を玄関口とする品川開発プロジェクトでは、5Gを前提とした最先端の通信インフラとサービスプラットフォームを両社が提供する。また、分散拠点として都市周辺や日本各地に分散型ワークプレイスを開発する。来春以降に東京、神奈川、埼玉、千葉エリアを対象として、多拠点とつながる分散型ワークプレイスのトライアル拠点を開設し、実証実験を実施する。「移動中においても効率的に働ける環境作りを目指す」(KDDI)としており、新幹線ワークプレイスもそこに含まれる。

移動時間の過ごし方を変える

空間自在プロジェクトはKDDIの通信技術を活用して「どこに出勤しても本社と同等の働く空間にする」というのがコンセプトの一つであり、ワークプレイスへの入室と同時に社内と同じ環境になるようなイメージだという。現在のところ、「新幹線ワークプレイスで使われる通信回線が5Gになるかどうかは未定」(KDDI)だが、いずれ5Gが整備されれば、新幹線ワークプレイスでの仕事は、現在の既存車両で行っているようなワークスタイルとは質的にまったく違ったものになりそうだ。

JR東日本とKDDIは分散型スマートシティに関する共同事業「空間自在プロジェクト」に取り組む(記者撮影)

昨年5月、JR東日本は、2030年度末の北海道新幹線札幌延伸を見据えた高速運転試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」を公開している。この列車では、東京―札幌間を長時間乗車する利用者にいかに有意義に移動時間を過ごしてもらうかということを念頭に試験が行われている。おそらく、東京―札幌間の移動時間を働いて過ごすというニーズもあるのだろう。

コロナ禍で出張を自粛する動きが続いているが、「出張がなくなるとは思わない」と、深澤社長は話す。新幹線での移動時間に、オフィスにいるのとまったく変わらない状態で働けるようになれば、それ以外の時間を有効に活用できるようになる。新たな働き方改革の時代が、すぐそこまで来ている。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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