新たな起業家「ディーパー」は地方の救世主か!? 地域を想い人間関係を重視する第4の経済主体
仲山:「ディーパー」の話を伺って、藤野英人さんの著書『ヤンキーの虎』(東洋経済新報社)のコンセプトと似ている感じがしました。両方とも「地域」や「土着」がキーワードとしてあるからです。
ただ、私の周りにいるEコマース(EC)をしている人たちには、あまりそういう物理的な概念はありません。多くは地方の中小企業の人たちですが、「地域コミュニティー」の代わりに「ECコミュニティー」があり、ネットショップ出店者同士でつながっています。
そういう違いはありますが、EC業界には「ディーパー」的な人が多いです。地方で実店舗を設けて商売をする場合、半径何キロ以内という商圏の中で多くの人に買ってもらえるような品ぞろえをしなければなりません。コンセプトがとんがりすぎていると、お客さんの絶対数が足りなくなってしまうから、品ぞろえとしては普通にせざるをえなくなります。
その点、ネットショップだと、1万人に1人しか響かないような商品やコンセプトでも、全国の人たちを対象にすれば商売が成り立ちますから、ディーパーになることが可能になります。
例えば、千葉県でお風呂グッズ専門店があるのですが、店長はお風呂のソムリエとして「バスリエ」を名乗り、お風呂グッズの世界を深掘りしていっています。最近ではテレビ番組に呼ばれて、お風呂グッズ愛を熱く語っていました。これも「ディーパー」ですよね。
齊藤:自分を掘り下げる、業態を掘り下げるという意味ではそうですね。ただ、地域にはとらわれていないと。
仲山:お風呂文化を広めていきたいというビジョンですね、「地域の文化」ではなく、「業界の文化」に向いている。
齊藤:その方もIPOやスケールに価値を置かず、売り上げよりもお風呂文化を広めていくところに関心があるのかもしれませんね。そういう意味では、ディーパーと同じです。
ディーパーの想いの連鎖が地方創生につながる
仲山:私の周りのディーパーたちには、共通するプロセスがあります。ネットショップを頑張っているうちに購入者も増えていき、売り上げが伸びていく。そこから売り上げ追求モードに入って、セールを増やしたり、売れるものを仕入れて売り始める。
売り上げは伸びるけれども、内容を見ると成長というより膨張に近く、「ほかのお店のほうが安ければそちらで買う」ようなお客さんしかいなくなって、消耗戦に陥ります。そのうち疲弊して、「なんのためにやっているのだろう」と疑問を感じ、自分と向き合って、本当に価値や意味のある商売に舵を切る。
先ほどの「バスリエ」もそうですが、自分が面白いと感じた対象をディープに掘り下げるほど、同じように面白いと感じてくれるお客さんが現れ、ファン同士がつながってくる。だんだんお店のまわりにコミュニティーができていき、いわゆるファンベースができて軌道に乗ってくるという流れがあります。
すでに売れている商品の取り扱いをやめるときは勇気がいりますが、顔が見えるお客さんたちが支えてくれるので、食べていけるのであれば規模の追求ではなく、面白さを感じられる道を選ぶようになるわけです。