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日本が米大統領選のサイバー攻撃対策に学ぶ事 民主主義への外なる敵と内なる脅威に備えよ

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だが、この世論誘導を最も恐れているのはほかならぬ中ロである。中国はGreat Firewallと呼ばれる大規模情報検閲システムを構築し、国内外のインターネット通信の監視だけでなく接続規制・遮断を行っている。ロシアも2019年に新法を制定し、政府が必要と判断した場合、インターネットの海外接続を遮断できるよう規制を強化した。

民意を世論誘導から守るための「敗れない戦略」

このような監視・検閲システムは独裁政権が恣意的に市民社会を統制する手段であり、民主主義とは相いれない情報操作である。民主国家はかかる検閲システムを築くことなく、民意を世論誘導から守るための「敗れない戦略」を考案し、実践しなければならない。

インターネット事業者の情報管理に透明性や健全性を確保する方策(ミドルウェア等)を導入し、既存メディアやシンクタンクによる事実確認を強化する。国民の情報に対する感度を高め、SNS等におけるベストプラクティスを身に付ける。そして、情報操作が付け入りやすい民主主義の脆弱点を改善することだ。

今回の大統領選挙では、合衆国憲法に内在する欠陥(勝者総取りの選挙人制度など)を指摘する声が多い。民主国家はつねに国内制度を新たな環境に適応させるとともに、国際協調して国境のないサイバー領域における共通の規範を確立するという困難な課題に取り組む責任がある。

比較的均質な市民社会を維持する日本は、欧米に比較すると世論誘導の影響は未だ限定されているように見える。だが油断はできない。トランプの不正選挙という主張に同調するSNSの声は多い。バイデン次期民主党政権は価値観やアイデンティティーを重視し、人権等では中国により厳しくなる一方、気候変動やパンデミック対策では中国との協力姿勢を取ると予想される。

三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)を国策とする中国が日米同盟にくさびを打ち込むため、在日米軍駐留経費や普天間基地等の安保問題について、地域や歴史に絡めて世論分断のタネをまくことは十分ありうる。日本はまず国の重要インフラのサイバー防護体制を構築するとともに、社会全体(whole-of-society)のデジタル耐性強化に取り組む必要がある。

(尾上 定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)

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