9月10日、デュッセルドルフ大学病院は、身代金要求型ウイルスによる攻撃を受け、病院のサーバー30台以上に保存されているデータが暗号化されてしまったことに気づいた。患者の治療に必要なデータにアクセスできなくなってしまったため、病院はやむなく、近くの救急車を手配し、急患たちを別の施設に移送した。予定されていた手術は延期された。
この病院が治療する患者数は、通常、1日あたり1000人以上にも上る。しかし、サイバー攻撃の後は、すでに院内にいた患者の治療を優先するため、新規の患者の受け入れは不可能になった。
9月11日の夜に移送された急患の中には、大動脈瘤を患っている78歳の女性患者もいた。女性はデュッセルドルフ大学病院から約32キロメートル離れた工業都市ヴッパータールの大学病院に救急搬送されたものの、治療が1時間遅れ、直後に亡くなった。
デュッセルドルフのあるドイツ西部のノルトライン=ヴェストファーレン州の司法省は、9月17日、女性患者の亡くなった原因が、身代金要求型ウイルス攻撃による治療の遅れと見られると発表した。同州の警察のサイバー犯罪部門は、過失致死も視野に捜査を進めることになった。
ところが、テクノロジー誌『ワイアード』によると、医療関係者への聞き取り調査、検死結果の分析、分刻みでの事件の流れの洗い出しなど2カ月に及ぶ大掛かりな捜査の結果、検察当局は、サイバー攻撃による治療の遅れが原因で女性が亡くなったかどうか立証できないと明らかにした。
死因はあくまでも患者の病状との結論
因果関係の証明の試みは、困難を極めた。亡くなった女性の患っていた大動脈瘤は進行していた。生死の瀬戸際に立たされている患者の場合、死因を病状以外のものに断定することは難しい。
検察当局は、女性患者の病状が相当深刻であったため、どの病院に入院したとしても、いずれは亡くなっていただろうと分析した。そのため、死因はあくまでも患者の病状にあり、サイバー攻撃は無関係と結論づけた。
ドイツのオンラインニュースサイト「ヴィンフューチャー」も、女性患者が定期的に通院していたとしても、今回の死は不可避だったのではないかと報じている。
ただし、検察当局も、治療を受けられなくなった場合、とくに緊急の治療を必要としている患者にとって由々しき事態になりかねないと認めている。サイバーセキュリティの専門家たちも、病院への身代金要求型ウイルス攻撃が原因で人命が失われるという悲劇が発生するのは、もはや時間の問題と見ている。
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