超名門大MITが音楽を学ぶ絶好の場と言える訳 創造的な問題解決には人文学やアートが不可欠

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③ 枠の外に出る、未知の状況に向き合う

人には本能的に安定を求める性質があり、積み重ねてきた経験を軸に思考・行動をすることが多い。ところが本来は、それ以外にも多くの知覚の可能性があるものだ。そこで、経験から得た思い込みを外すことが必要になる。

それは脳の「可能性の空間」を広げることにもなるが、未来を想像し、創造する役割を担っている科学者やエンジニアたちにとって重要なことでもあろう。

人は本能的に予測可能なことに安心感を覚えるが、意外な展開や驚きの効果も好む。
そもそも西洋音楽は緊張と解放でできており、予測不能な展開も多くある。
たとえば「調性音楽の作曲」の授業で扱ったシューマンの『子供のためのアルバム』から抜粋された一曲は、まさに予想が覆されていく展開だ。
緊張がなかなか解放されずに続いていくことによって曖昧さや神秘性を強調するという、既存のセオリーを逆手に取った作品である。
答えの出ない問いを続けていくような、果てしない自問自答のような、作曲家を投影したような曲であり、それは公式にのっとって手順を踏めば正答にたどり着くような数学とは正反対である。
しかし、それこそがいかにも人間らしい部分なのだ。
(291〜292ページより)

音楽には、人間の人間らしさが最も顕著に表れる。数字で端的に割り切れるのとは異なる世界観をもたらしてくれるのはそのせいだ。効率重視の科学技術にはない神秘性や不確実性を体感すれば「可能性の空間」を広げることができ、人間の潜在能力をさらに引き出すことができるようになるのである。

物事はひとつの要因だけで合理的に成り立っていない

④ 「より大きな全体」を構想する
『MIT マサチューセッツ工科大学 音楽の授業 ~世界最高峰の「創造する力」の伸ばし方』(あさ出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

MITの授業には人文学・芸術科目だけに限らず、科学・工学・コンピューターサイエンスなどあらゆる分野の科目のなかに「コンテクスト・文脈を読み解く」というシチュエーションがあるそうだ。

物事はひとつの要因だけで合理的に成り立っているわけではなく、その背景に多くの複雑な要因や可視化されない動機を含んでいることもある。したがって、それを読み解くには「より大きな全体」を見る目を養う必要があるわけだ。

音楽においても、求められるのは「全体を見ること」、そして「複雑な文脈や隠れた意図を読み解くこと」である。

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