「円高ではなくドル安」だから今後は怖いのだ 日銀にとって避けたい展開は欧米との比較論

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今後、日本の政治・経済、とりわけ日本銀行として構えるリスクはやはり金融政策絡みの円高であろう。すでに一部でそのような解説が見られるが、「日銀の金融緩和は欧米対比で劣後している」という解釈が円高地合いで流布されることが当面の日銀にとって最も避けたい展開ではないか。

為替市場参加者が好む「中央銀行のバランスシート規模の比較」をしてみると、確かに日銀が出遅れているような構図にはなる。これを通貨価値と結び付ける議論には理論的な裏付けがあるわけでもなく、筆者はまったく支持しないのだが、時にそうした論陣が影響を持ってしまうのが金融市場、とりわけ為替市場である。

今の日本には有効な打開策がない

ドル全面安をファンダメンタルズに沿った既定路線と見なすならば、この圧力に対抗するポジションとして円そしてユーロがある。既報の通り、ユーロは12月会合での追加緩和を予告済みであり、しかも現時点では世界最大のバランスシートという謳い文句も一応はある。単純に「量」を比較するモードに入った場合、日銀にまず勝ち目はないだろう。

もちろんGDP(国内総生産)比で見れば100%以上の規模を誇るのは世界でも日銀だけなのだが(ECBは60%程度、FRBは30%程度)、いったん舵が切られると為替市場は自己実現的に一方的な展開を極めようとする。こうして「緩和程度が劣後している」という因縁(いんねん)をつけられた格好で円の独歩高が進むと、今の日本にはこれといって有効な打開策がなさそうだ。これは日本経済が当面抱える最大のリスクの1つといえる。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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