「円高ではなくドル安」だから今後は怖いのだ 日銀にとって避けたい展開は欧米との比較論
11月の円高進行に対し、「政府・日銀が何らかのアクションを起こすと思うか」という照会を企業からいくつかいただいた。筆者はそうは思っていない。
安倍前政権下では、ドル円相場がまとまった幅で下落するたびに財務省、金融庁、日銀による3者会合が開催されてきた。「市場の安定は極めて重要であり、緊張感を持ってその動向を注視していくことが重要であるという認識を共有した」などの声明を示すことで円高のけん制を試みるというのが会合の趣旨であり、具体的な政策措置を伴うものではない。しかし、政府・日銀の危機感を推し量るバロメーターとしては参考になる。相応に市場の注目度も高い動きだったといえる。
財務省、金融庁、日銀による3者会合は直近では7月、年初来では2月および3月に開催されており、菅政権になってからはまだ開催されていない。
「リスクオフの円高」ではない
今年開催された3回の3者会合のうち、2月と3月の2回はコロナ禍における「リスクオフの円高」であり、ボラティリティ急騰を伴うヒステリックな動きであった。こうした動きになれば間違いなく3者会合は開催されるものと考えてよい。7月はボラティリティこそ低下傾向にあったが、月末にかけて欧米株が大きく崩れ、日経平均株価も7月31日は6日続落、1か月半ぶりの安値で取引を終えるという地合いにあった。その意味で「リスクオフの円高」であったことは間違いない(なお、7月は「人事異動後の新たなメンバーの顔合わせも兼ねて開催」との公式説明もあった)。
しかし現状は日米欧株価が絶好調の中での円高であり、あくまで「ドルの過剰感」と「米国の低金利継続」に駆動されたドル全面安の副産物である。米国の財政・金融政策が国内情勢を支援するために執行され、その結果としてファンダメンタルズに沿ったドル安が進んでいるのであれば、政府・日銀として懸念を示す筋合いにはない。対ドルでの通貨上昇はユーロ圏も苦しんでいるところであり、日本だけが影響を受けているものでもない。麻生財務相の「円高ではなくドル安」との言葉に凝縮されるように、円高だけをあげつらって評価するのは難しいといえよう。
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