北陸・北海道に続くか、「四国新幹線」構想の盲点 四国4県は一枚岩か、通過点の岡山の動向も鍵に

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開業すれば、現行1時間44分~3時間半かかる大阪─四国4県が1時間15分~1時間38分で結ばれる。四国内の時間短縮効果はさらに大きく、現行4時間07分かかる松山─高知間が54分、同2時間22分かかる高松─松山間が42分となる。これなら高速バスから新幹線へのシフトも期待できる。

四国新幹線のルート案(四国新幹線整備促進期成会の資料を基に編集部作成)

「リニアが新大阪まで延伸する2037年を1つの目標として、一部でも四国に新幹線を開業させたい」(千葉会長)。リニアと組み合わせれば、東京─四国4県の移動も3時間以内に短縮され、航空機と比べても優位に立てる。総事業費は1.57兆円と試算されている。

瀬戸大橋はもともと新幹線規格で建設されていることから、その分だけ建設費を抑えられる。新幹線の線路を複線ではなく単線にしてさらにコストを下げるという構想もある。

期成会は政府与党に対し、四国新幹線の整備計画への格上げに向けた法定調査費の、2021年度政府予算への計上を要望している。新幹線建設の工期は約10年。その前に行う環境影響評価も数年単位となれば、2037年開業に向け、一刻も早く整備計画に格上げする必要がある。

四国4県に「温度差」も

ただ、新幹線の実現には課題も少なくない。まず挙げられるのは、四国4県が一枚岩かどうかという点だ。徳島県にしてみれば期成会が提唱するルートよりも、もともと国が計画していた淡路島を通って大阪と結ぶ当初計画ルートのほうが短時間で大阪と行き来できる。

このルートを使えば関西国際空港から訪日客を四国に呼び込める。「期成会の提唱するルートを否定はしないが、徳島県としては国の基本計画が四国新幹線であると考えている」(県次世代交通課)。期成会は「徳島県も4県を結ぶT字型ルートのほうが経済効果が高いことはわかっているはず。第1段階は瀬戸大橋経由で」というスタンス。徳島県とは温度差があるように見える。

岡山県の出方も気がかりだ。岡山県内の新線建設は国と岡山県が費用を負担する。しかし、費用負担に見合う経済効果を岡山県は得られるか。加えて、新幹線完成に合わせ、JRが岡山─児島間の在来線を廃止するようなことがあれば、近距離利用の地元住民にとってはダメージが大きい。長崎新幹線・新鳥栖─武雄温泉間の整備方式をめぐって対立が続く長崎県と佐賀県の関係と似た構図だ。

現状、岡山県は、「法定調査には協力する」(県民生活交通課)という。しかし、調査の結果、岡山のメリットは少ないということになれば、その後の協力が得られず、四国4県やJRが岡山県の負担を肩代わりする局面もありうる。

その点では、徳島県が期待する大阪ルートも、大阪府や兵庫県が費用負担を嫌う可能性はある。次の新幹線の整備に際しては、自治体の費用負担のあり方を抜本的に変える必要がありそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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