映画「親切なロシア料理店」で知る人々の優しさ 「まわりの親切な手」を頼るのも正解のひとつだ

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そんな彼女は救急病棟の激務に加え、教会では「赦しの会」というセラピーを開いている。自分のしあわせは諦めたとばかりに、他人のために人助けに身をささげるようになる。

そしてもうひとりが、暴力的な夫から逃れるために車に乗り込み、幼い2人の子どもたちを連れて、あこがれの街マンハッタンに逃げこんできた主婦のクララ。彼女の夫は一見、優秀な警察官に見られているが、実は子どもたちに暴力を振るうという裏の顔があることを知ってしまったのだ。

だが、クレジットカードも現金も夫に管理されてきた彼女にはお金もなく、子どもたちと行くあてもなく街をさまよう。もちろん夫に居所がバレてしまうため、役所も警察も頼ることができない。

夫の父に援助を求めるも「関わりたくない」と断られる始末。手持ちの金銭もないため、ホテルにも泊まれない。仕方なくクララは街に出て、食料や金銭を工面するために危ない橋をわたるようになる。それはすべて子どもたちにひもじい思いをさせないためだ。

作品から見える都会で暮らす女性の生きづらさ

その間、子どもたちは公共図書館で時間をつぶしている。アメリカの公共図書館は、ホームレスたちが寒さをしのぐための命の避難所となっているのだ。そして母子はやがて教会にたどり着く。教会では食料の配給や炊き出しが行われている。そして教会にいたアリスの好意により、教会に寝泊まりすることもできた。

DVの夫から子連れで逃げだした主人公・クララ(左)をゾーイ・カザンが演じる © 2019 CREATIVE ALLIANCE LIVS/RTR 2016 ONTARIO INC. All rights reserved

だがそんなある日、クララの車がレッカー移動されてしまう。そしてその情報はすぐさま警察官の夫の耳に入り、夫がクララたちのもとにやってくる――。

アリスとクララは、それぞれに悩みの質こそ違えど、都会で暮らす女性としての生きづらさを感じている。この物語についてシェルフィグ監督は「この映画は政治的なニュアンスを含んでいる。それを表には出さないけど、それがなんとかにじみ出てくることを狙った。これは大きな問題を含んでいる映画だけど、普通の人がどうやって生きていくかについても描いていて、実は見知らぬ人から多くのことが学べるということを教えてくれる」と明かす。

そんな二人の女性を包み込んでくれるような場所が、ニューヨークのマンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店〈ウィンター・パレス〉だ。ここに集まる人々はとにかく生き方が下手で、ひと癖もふた癖もある人物ばかり。

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