元祖ミシュラン三つ星店が閉店する切ない事情 スペイン料理を世界に知らしめた「サラカイン」

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ちなみにサラカインでの1人当たりの料金は平均150ユーロ(約1万8000円)とされているが、例えばワインなどを頼めば200ユーロを超すのはザラ。同店は、ワインはカバなどを含め1000種類用意しているそうだ。

中にはサラカインだけに醸造しているワインもある。価格はワイナリナーが出す価格から最低でも3〜4倍、時には5倍の値段でメニューに加えられている。著名レストラン、しかも品質を落とさないように保存するにはコストもかかるわけだ。

経営陣は存続の手段も考えたが…

そんな名門店をコロナの脅威が襲ったのは今年3月。パンデミックに伴う外国からの訪問客は激減したうえ、3月から6月までは非常事態宣言で閉店せねばならなくなった。8月はわずかだったが営業することができた。しかし、9月からまた第2波が押し寄せて客足は再び遠のいてしまう。

50人いるスタッフの一部は休業補償を受けられるようにしたが、店を閉めていても出費はある。2018年に定年したペレス氏の跡を継いだカルメン・ゴンサレス氏は地元紙『エル・パイス』に対して、「10月に入ってこの先回復する見通しが立たず、また事態はさらに深刻さをましている」とメールで答えている。経営陣は存続できる手段をいろいろと考えたようだが、「パンデミックから完全に回復するのがいつかわからない」というのが閉店を決める要因となった。

一方でゴンザレス氏は、「私の人生の中でこれほど多くの支援のメッセージを受けたことはない。外国からのお客さまや友人、また同業者からも多くの電話を受けた」と同紙に述べている。

サラカインの閉店はほぼすべてのスペインメディアが取りあげた。それは、スペインの民主化が始まったのと同時に、スペイン料理が世界的に知られるようになった先駆者的な存在だからである。

それだけにサラカインの閉店はスペイン人にとってショックなことだが、コロナによって同店以外にもミシュランの星を持っているレストランがいくつか廃業している。スペインの飲食店にとっては長すぎる冬の時代に突入している。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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