東急池上線、大都会に珍しい「人情路線」の素顔 リニューアルした駅舎と昔ながらの風情が共存

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そんなザ・庶民派の池上線。朝夕の通勤時間帯にお客が集中するような路線とは違い、日中の買い物などで1駅だけ乗ったりするような人も多いとか。確かに、取材で訪れた平日の昼間もほとんどの列車の座席は埋まっていた。それだけ沿線に愛され、沿線地域の中に入り込んだ生活路線なのだろう。

ただ、そうした池上線も新型コロナウイルスの影響は直撃している。4月から5月の緊急事態宣言中はもちろん電車もホームもガラガラに。7月の池上駅リニューアルの際も「本当ならば大々的なイベントをしたかったのですが……」(曽我駅長)。しかし、コロナ禍の厳しい状況でも、池上線と沿線住民の心の通い合いはいつもと変わらなかったようだ。

「蒲田駅の係員からマスクの作り方をまとめたチラシをお配りしたいという提案がありまして、蒲田に本店のあるユザワヤさんに相談したんです。そうしましたら、ぜひ一緒にやらせてくださいということで、ユザワヤさんに監修していただいてマスクの作り方のチラシをお客さまにお配りすることができました」(曽我駅長)

コロナ禍でも絶えない交流

「電車に乗ってください」とは言えない緊急事態宣言中でも、電車はいつもどおりのダイヤで動き続けていた。そうした状況で沿線の人たちとの交わりを絶やさない――。それが池上線の本質なのだ。

池上線を所管する2人の駅長は「沿線住民との距離が近い」と口をそろえる(筆者撮影)

「旗の台駅の近くには昭和大学病院がありまして、新型コロナの患者さんの治療にあたっているんです。そこで、駅の係員からお礼と応援の手紙を送らせていただきました。それがかなり反響があって、病院からも『元気が出ました』とまたお礼を言っていただきました。お客さまからのメッセージもお預かりしましたし、これはやってよかったな、と本当に思いましたね」(所駅長)

今では少しずつお客の動きも戻りつつあるというが、以前ほどのにぎわいにはまだまだだ。だが、「何があっても変わってほしくない」(曽我駅長)という“地域の中に溶け込む池上線”という個性は、沿線住民も共有するいわばアイデンティティ。時代がどう移ろおうとも、池上線らしさ、は永遠なのだろう。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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