日銀副総裁、物価上振れ時の緩和縮小に言及 黒田総裁の「静かなデフレ脱却宣言」に続いた?
[東京 27日 ロイター] - 日銀の岩田規久男副総裁が26日の講演で、物価が目標の2%を超え続けるようなら現行の量的質的金融緩和政策(QQE)を縮小すると発言した。物価が上がり出した今年に入って、日銀首脳が具体的な条件を明示し緩和政策の縮小(テーパリング)の可能性に言及したのは初めて。
黒田東彦総裁は、出口政策の検討は時期尚早と明言しているが、QQEの先行きをめぐり、日銀とマーケットとの間の「対話」が静かに始まる兆しがある。
日銀は昨年来「上下」のリスクに言及
岩田副総裁が、物価上振れ時の緩和縮小に言及するのはこれが初めてではない。大胆な金融緩和によるデフレ脱却を主張するリフレ派の代表的な論客である岩田副総裁は、巨額な国債買い入れのリスクに対する懸念をけん制するためにも、物価目標は物価が上振れる際はブレーキとして作用すると昨年から繰り返し指摘してきた。
昨年8月には「2%の物価目標を安定的に達成すれば、政府から要請があっても国債を買わない」(京都市での講演)などと述べている。
中央銀行が物価目標を目安に金融政策を運営するインフレ目標政策は、高インフレに悩まされてきた国などで、物価を円滑にコントロールすることを目的に考案された仕組み。
日本では、同じ仕組みを利用しながら、デフレからマイルドなインフレに移行させることを目的に採用した。デフレ脱却を主眼にしたインフレ目標政策の採用は、世界で初めてと言える。
日銀は昨年4月のQQE導入以来、物価が目標を上回る場合と下回る場合をまとめて「上下双方向のリスク」と呼び、その場合は政策を調整すると繰り返してきた。
ただ、民間エコノミストの多くは、日銀が主張する2%の物価目標は達成が困難とみているため、物価の下振れによる追加緩和はあっても、上振れによる緩和縮小は考えにくいとの見方が主流だった。
「思いのほか早く」需給ギャップ縮小
しかし、ここにきて日銀は2015年度の物価目標達成に自信を深めている。2013年度は輸出の低迷が続いたにもかかわらず、物価は日銀の見立て通り順調に上昇を続けた。
少子高齢化などを背景にした人手不足などで、国内の供給余力が想定より小さく、輸出低迷という需要下押し要因にもかかわらず、賃金上昇などを通じて物価が上昇している形だ。
26日に公表された4月30日分の日銀金融政策決定会合議事要旨によると、何人かの委員が、需給ギャップの縮小について「思いのほか速いペース」と指摘した。
日銀の試算によると、需給ギャップは昨年10─12月の時点でほぼゼロまで解消。今年1─3月はプラスに転じ、4─6月も増税駆け込みの反動はあるもののプラスを維持するとみている。
日銀とは試算方法が異なるためギャップが大きめに出る内閣府の試算でも、1─3月はマイナス0.3%とほぼゼロとなり、リーマン・ショック前の水準に戻った。
識者からデフレ脱却発言相次ぐ
一方で、日銀は5月20─21日の金融政策決定会合の声明文から「(金融緩和が)デフレからの脱却に導くものと考えている」との文言を削除し、一部債券市場関係者からは日銀の「静かなデフレ脱却宣言」と受け止められた。
岩田副総裁は26日の講演で「金融政策は需給ギャップを絶えず埋めることはできるが、潜在成長率を引き上げることはできない」と指摘。需給ギャップ解消は日銀、成長率引き上げは政府、との役割分担をあらためて強調した。
安倍晋三首相のマクロ経済政策のブレーンである浜田宏一・内閣官房参与(イエール大学名誉教授)は、需給ギャップが解消した後は「潜在成長力が引き上がらないと金融緩和は物価上昇のみをもたらす」と指摘。金融緩和は需給ギャップの解消にこそ有用で、インフレリスクにも留意すべきとの見解を表明している。
元日銀理事の 早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローも、デフレはすでに脱却しつつあり「もはや需要を刺激すべき局面ではない」と20日に開かれたロイター日本投資サミットで主張している。
2015年の資産買い入れめぐり憶測も
こうした中での岩田副総裁の今回の発言は、物価上昇率が前年同月比でプラス1.3%と昨年8月の講演時に判明していた13年6月の同0.4%から大幅に上昇幅が拡大しており、市場の受け止め方が違ってくる可能性がある。
ある国内銀行関係者は「まだ、市場は2%接近を実感していないが、今後、物価上昇率が上がってくれば、この岩田副総裁の発言があらためて意識される可能性がある」と指摘する。
アベノミクスの支持者として知られる米ハーバード大学のジョルゲンソン教授は21日のロイターとのインタビューで、物価目標の達成が視野に入っており「市場に準備をさせ始めるべきだ」と指摘。「日銀は段階的かつ計画的に政策を変更するということを発表する必要がある。この先12カ月以内に起こる変化について、今期待を制御し始めても早すぎるということはない」と述べた。
日銀に近いある関係者は、中央銀行の職責上、「頭の体操」の一環として、QQEのテーパリングの方法を研究していることはあるだろうと指摘する。ただ、昨年5月22日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長によるテーパリングの可能性に言及した発言を受け、米金融・資本市場が大きく変動したことも、日銀は十分に研究しているはずだとし、市場との対話にはかなり入念な準備をしてくるはずだとの見方を示した。
実際、デフレ脱却後も、物価が2%前後で安定的に推移するまでQQE継続方針を表明している日銀内で、現時点物価の上振れや緩和縮小について真剣に検討している気配はない。
ただ、黒田総裁はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、日銀内では多くのケースについて常に研究しているとし「FRBの経験が日銀にとって非常に役立つことは間違いない」と述べている。
今後の物価上昇が日銀のシナリオ通りに進展した場合、金融政策の対応はどのようになるのだろうか──。
日銀は昨年4月のQQE導入時に長期国債などの資産買入れ予定を公表したが、それは2014年末までだ。
2015年1月以降に国債買い入れを増額するのか、それとも減額するのか、はたまた現状の買い入れペースを維持するのか。いずれかの段階で市場の思惑を呼ぶのは間違いない。物価の上昇ペースによっては、マーケットにおける追加緩和期待よりも、緩和縮小観測が大きくなるケースもありそうだ。
(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)
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