菅政権で加速?「地銀再編」が意外に難しい理由 金融庁長官は地銀トップと早朝からウェブ会議

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さらに地銀は不動産仲介業務の解禁にも期待をかける。「不動産の仲介業務が認可されれば、融資との高い相乗効果が発揮でき、地元融資も伸びる。地方創生にも一役買える」(地銀幹部)という。

普通銀行は不動産業務を手掛けることができない。2002年の『金融機関の信託業務の兼営等に関する法律』の改正によって、普通銀行本体における信託業務が認められたが、その際も信託兼営金融機関が営める業務から不動産仲介業務を含む不動産関連業務は除かれた。銀行界では信託銀行が唯一、兼営法上の併営業務として認可されている。

「(信託業務を行う地銀と信託銀行は)同じ信託兼営金融機関であるにもかかわらず、一部の銀行のみ不動産関連業務の取り扱いが認められていることは不合理である」。地銀は2019年度規制緩和要望でそう指摘している。

だが、不動産仲介の実現は難しいだろう。背景には「不動産関連業務には多数の専業者がおり、主務官庁である国土交通省との調整が不可欠で、無理押しすれば政治問題化しかねない」(大手信託銀行幹部)という事情がある。平たく言えば、全国の地銀がこぞって仲介業務に進出すれば、既存業者の倒産リスクが高まるというわけだ。

その急先鋒が全国の宅地建物取引業者で、金融界では「菅首相誕生で、地銀の不動産仲介業務参入は絶望的となった」(メガバンク幹部)とささやかれている。

菅首相と昵懇とされる全宅連会長

それというのも、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の会長に、菅首相と昵懇の関係と言われる神奈川県宅地建物取引業協会の坂本久会長が就いているためだ。

坂本会長は、菅首相誕生直後に総理官邸を表敬訪問し、土地の固定資産税にかかる課税標準の据え置きや不動産取引の電子化推進などを要望している。「坂本氏は神奈川県宅建業のドンで、菅氏を支えたキーマンのひとり」(同)とされる。菅政権下で地銀の要望が日の目をみることはないだろう。

金融庁の氷見野良三長官は7月に就任して以降、早朝30分間を利用して地銀のトップとウェブ会議を開いている。地域の実情や銀行の経営状況について対話しており、「環境は厳しいが、地銀には大きな可能性があると考えている」(氷見野長官)とエールを送る。

地銀の経営環境は、それぞれの地盤や歴史によりまさに多様だ。処方箋も多様であり、氷見野氏は「再編なしに地域課題を解決して経営を強化する道もある」とする一方、「再編は有力な選択肢だ」とも述べている。

11月27日には、地銀の再編を後押しし経営基盤の強化を促すために、地方銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が施行される。適用期間は10年間となる。

特例法には、統合・合併で市場占有率が高まった地銀が不当に貸出金利を上げないよう監視し、利用者保護を徹底する規定も盛り込まれた。借り手の不利益が大きいと判断された場合は、金融庁が業務改善命令などで是正する。

こうした点を踏まえ、金融庁が統合・合併を目指す地銀の事業計画を審査し、収益力や金融サービスの維持につながることを条件に、公正取引委員会と協議して認可する。

地銀再編の舞台は整いつつあるが、再編の決断をする主役はあくまでも地銀だ。行政が演出しても、舞台が成功するかしないか、顧客に大喝采を浴びるかいなかは、ひとえに地銀の立ち居振る舞いにかかっている。

森岡 英樹 経済ジャーナリスト

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もりおか ひでき / Hideki Morioka

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、 経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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