「007最新作の配信」をAppleがあきらめた理由 あまりにも法外すぎる「権利料6億5000万ドル」

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しかし、スタジオは『ワンダーウーマン』や『トップガン』の続編、『ワイルド・スピード』最新作など大型予算をかけた世界的ヒットを見込めるシリーズ物のアクション映画に関しては、全世界一斉での劇場公開にこだわる姿勢を崩していない。

数百億規模の予算をかけると、劇場公開なしでは元手が取れないためだ。2億5000万ドルの製作費をかけた『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、まさにその代表例。だからこそ、MGMが配信に切り替えようとしていたという報道は衝撃だった。

知名度が抜群で、若者から高齢者まで幅広い観客にアピールできるボンド映画をなぜ? それはひとえにMGMの懐事情のせいだ。

毎月100万ドルの利子を払い続けるMGM

現在、MGMの役員会長を務めるのはヘッジファンド会社アンカレッジのケビン・ウルリッチ。彼が今のポジションに就いたのは、MGMが倒産した2010年のこと。価値の落ちた会社に投資することで再起させ、高く売るのは彼らの得意とするところだった。

しかし投資家の間では、スターが集まるパーティやプレミアに出席できる役得に味をしめたのか、ウルリッチが冷静にMGMの投資の価値を判断していないのではないかという疑問もあった。業績もキャッシュフローもかんばしくないMGMを、ウルリッチは他よりもなぜか長期間にわたって保持しているのだ。

そうした疑問に対しウルリッチは「そのうちMGMは90億ドルで売れるから」と答えてきた。その約束を果たす上で、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のヒットはとても重要なミッションだったのである。

なのに、コロナのせいで大作映画は、公開できない状況になってしまった。公開なしには当然、お金は入ってこない。さらに待っている間にも製作費のために借り入れたお金の利子だけで、毎月100万ドル(およそ1億円)が出ていくのだ。

そしてもどかしいことに、映画館が普通の状態に戻る見通しは、まったく立たない。それゆえAppleやNetflixなどの配信会社へ「007」の売却を持ちかけたというわけである。

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