逃げ恥脚本家語る「エンタメ共感競争」への異論 野木亜紀子氏「映画は客観、複数の視点がある」

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「コタキ兄弟と四苦八苦」の第5話は、レジのお金が巡り巡るバカバカしさしかないストーリーでしたが、あれを書いているときは本当に楽しくて。なんの意味もない30分。ああいう話をひたすら書いていたいと思う瞬間もしょっちゅうありますよ。だって、楽しいし書くのもラクだから。だけどあれが10話続いたらさすがに飽きる(笑)。全体のなかにある1話だからいいんだと思います。

一方、私は説教ドラマって嫌いなんです。こうみえて(笑)。ドラマであっても毎週説教されるのって嫌じゃないですか? 言いたいことを全部台詞で言っちゃったら芸がないし。でもプロデューサーに求められたり、何かしら入れないと物語を締められないときもあって。そういうときは長セリフにはせず、いかに短く、説教にならない別の形で締めるかについて毎回よく考えています。

観る人の気持ちを前向きにしたい

――コロナ禍を経て脚本の書き方が変わったり、いま伝えたいことが生まれたりしていますか。

いまのところとくにはないです。いまはまだコロナの影響がいつまで続くのか、制作がこれからどうなっていくのか、ドラマの日常をどう描いていくのかが、まったく見えていない状況です。次の自分の作品が撮影され、放送されるときに、状況がどうなっているかわかりませんから。

ただ、ここ最近、コロナが無関係とは思えない不幸な出来事が続いているのがつらいですね。だれも死なないでほしい。そうなるくらいなら逃げてほしい。それしか言えることがないです。こんなご時世だから、観る人の気持ちを前向きにする、明るくポジティブになれる作品を作りたいという気持ちはあります。

野木亜紀子/のぎあきこ 1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校を卒業後、ドキュメンタリー制作に携わり、2010年に『フジテレビヤングシナリオ大賞』を受賞し脚本家デビュー。主な脚本担当作品は、映画『図書館戦争』シリーズ、『俺物語!!』、『アイアムアヒーロー』、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、オリジナル作品としてテレビドラマ「アンナチュラル」、「MIU404」、「獣になれない私たち」、「フェイクニュース」、「コタキ兄弟と四苦八苦」など

――コロナをものともしないヒットとなった「半沢直樹」は、最終回視聴率30%超えの驚異的な数字になりました。思うところはありますか。

わあ、すごいなあって(笑)。私はまだ観ていないのですが、それだけの人を楽しませるのはすばらしいこと。コロナをものともしないというよりもむしろ、コロナ禍によって再びテレビの需要が戻ってきた気はしますね。

とはいえ、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』もそうですが、これらは特異点のようなもの。同じことをやれば成功するのかといえば決してそんなことはないので、それ以上はどう思いようもないです。プロデューサーの立場だと違う思いもあるでしょうが、脚本担当としてはとにかく質の高い作品を目指して作り続けるしかないと思っています。

実はこのご時世にもかかわらず、「MIU404」のパッケージ(DVD、ブルーレイ)は売れそうです。すでにすごい予約数が入っていますから。この場を借りて、皆さんありがとう! と伝えたいです。そして映画『罪の声』もよろしくおねがいします。

武井 保之 ライター

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たけい・やすゆき / Takei Yasuyuki

日本およびハリウッドの映画シーン、動画配信サービスの動向など映像メディアとコンテンツのトレンドを主に執筆。エンタテインメントビジネスのほか、映画、テレビドラマ、バラエティ、お笑い、音楽などに関するスタッフ、演者への取材・執筆も行う。韓国ドラマ・映画・K-POPなど韓国コンテンツにも注目している。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク系専門誌などの編集者を経て、フリーランスとして活動中。

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