「小児性愛者による闇政府」信じる人が多い理由 大統領選前に「Qアノン」が勢いづいてきた
Qアノンに触発された現実の暴力事件は確認されていないが、各ソーシャルメディアはQアノン情報の拡散防止に動いており、10月上旬にはユーチューブもこうした流れに加わった。
しかし、ジョージア州などで何十人という人々に取材すると、Qアノンのムーブメントがインターネットの枠をはるかに超えて成長してきている様子がわかる。かつて保守の草の根運動として盛り上がりを見せた「ティーパーティー(茶会党)」と同じく、世の中に対する怒りが原動力になっているのだ。トランプ氏はまさにこうした怒りを吸い上げることで、大統領への階段を駆け上った。
コロナ禍で勢力拡大に拍車
人々は「取り残されたと感じている」と、共和党の地方組織で幹部を務めるマクレー・カイアさん(24)は語る。そして人々はなぜ自分たちが取り残されているのか、その理由を「エリート層」の犯罪にスポットライトを当てるQアノンに見いだした。「悪いのは自分たちではない。悪いのはスワンプ(泥沼)だ」という理屈だ。スワンプというのは、トランプ支持者らが使っている合言葉で、泥のように腐った支配層を意味する。
カイアさんはQアノンについて調べてみたが、その主張をどこまで信じていいのか、よくわからなかったという。ただ、取材した人々の多くはQアノンの主張の一部、もしくは大半を信じていると語っており、またQアノンの名前を知らないと答えた人々の大部分も、その主張にはよく通じていた。パワーエリートの間で小児性愛を目的とした子どもの人身売買や悪魔崇拝が横行している、という話だ。
とはいえ、Qアノンはかなり柔軟な運動で、保守派になじみのあるテーマをさまざまに取り入れている。Qアノンを狂信者の集まりとしてまったく相手にしないような人ですら、似たような陰謀論を自ら触れ回っていることが少なくない。
例えば、新型コロナウイルスのパンデミックは真っ赤なウソで存在しない、百歩譲ったとしても問題は大げさに誇張されているだけだ、という説がこれに相当する。オバマ前大統領について人種差別的な発言を繰り返し、投資家のジョージ・ソロス氏が政治システムを支配しているという反ユダヤ主義的な考えを流布している人も多い。
Qアノンに関する世論調査はほとんど存在しない。ただ、共和党員の間でQアノンが少数派でありながらも無視できない規模になってきたことを示す状況証拠は増えている。Qアノン信者は議会選挙に出馬するようになり、州や地方レベルで政治的な存在感を見せつけるようになっている。
3月に新型コロナのパンデミックが始まってから、Qアノンの成長に拍車がかかり、その影響力はソーシャルメディア上ではっきりと感じられるようになった。10月に入ってQアノン関連のコンテンツが禁止されるまで、フェイスブック上には何千というQアノン関連グループが存在し、何百万人という人々がこれらのグループの参加していた。