もはや流行語「DXを叫ぶ」企業が知らない大問題 日本企業とベンダーの"共存関係"は特殊だ

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これまで、事業会社とITベンダーは、「共存関係」「蜜月関係」にあった。

自社の事業をよく知る社員と、ITベンダー企業から派遣されてきたSEがチームを組み、試行錯誤を繰り返し、新機能を追加したりする。そうして、機能を高めたり、バグを取り除いたりというようなことを日常的に行う。これが多くの企業で当たり前のように行われてきた。

この仕組みは多くの人が想像する以上に強固なものだ。日本のシステム開発では、プロジェクトマネジャー以下、システム開発に関わるプロジェクトの全体がITベンダー側で行われ、開発の全責任をベンダーが負うのが常となっている。

ここでいう「全責任」はなかなかに重い。請負という契約形態が用いられ、受託側は、「仕事の完成」を約束し(民法632条)、請け負った側は契約不適合(4月1日改正民放以前は瑕疵担保と呼ばれた)の場合に修理や代替物の提供、代金の減額などの責任を負うという厳重な契約となっている。

そしてこれを厳格に実施するため、要件定義から開発、テストへとしっかりと段階を踏んで移行する態勢となっている。

この厳重な態勢は、スピーディーな環境変化へ対応する場合の壁となっている。ベンダーは工数によって対価を見積り、顧客と契約しているので、もし途中でさらによいシステムを作るアイデアを思いついたとしても、多くの場合はそのまま見過ごす。なぜなら、それを口にすれば、プロジェクトに大きな手戻りを発生させ、工数を増大させるからだ。それは、自分の首を絞めることとイコールだ。

また、こうしたシステム開発は長期間にわたり、2~3年を要することもザラだ。仮にビジネス環境に変化があったとしても、この重厚長大な仕組みでは、それらに柔軟に対応することはほとんどの場合できない。

「購買部門」と化す、企業の情報システム部門

そもそも、企業がシステム開発をITベンダーに任せ、責任もベンダーに負わせているのには、シンプルな理由がある。企業の情報システム部門には、システム開発の機能や能力がないからだ。

アメリカではシステムエンジニアの多くが企業に属しているが、日本ではベンダーに属している。社内にはプロのシステムエンジニアは多くの場合、存在していない。

ここで、「では、企業の情報システム部の人は何をしているのか?」と疑問を持った人もいるだろう。それは、ITベンダーと事業部門のやりとりの間に立つ「仲介屋」「翻訳者」として存在しているのだ。

もちろん、仲介屋としての任務は重要だ。ベンダーの言いなりにならないように契約上の工夫を凝らしたり、複数のベンダー間の競争状態を維持するというような発注方法を考案したり、日本独特のITサービス形態を前提とした購買方法の専門家となっている。

それは現状として必要なことではあるが、未来もこの形でいいのかというと、筆者は疑問を感じざるをえない。DXといいながら、デジタルのプロが社内にいない、スピーディーに対応できないというのは、今後の競争環境において決定的な弱点となりうると考えるからだ。

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