もはや流行語「DXを叫ぶ」企業が知らない大問題 日本企業とベンダーの"共存関係"は特殊だ

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こういうと、餅屋は餅屋、ITのことはベンダーに任せるのが効率的だという声が聞こえてきそうだ。実際、そう考えて、多くの企業がシステムをITベンダーに任せてきたはずだ。

しかし、ITベンダー側にも実は問題がある。構造的に、彼らのシステム開発能力が本当に高いかというと、そうとは言えない背景事情があるのだ。

ITベンダーは事業会社からプロジェクト単位で情報システム構築を請け負うため、開発要員の需要量がその時々で変動する。丸投げの代わりに高単価で受注しているので、「人がいない」とは言わず(言えず)、うまく人を外部から調達してくる必要がある。

そこで生まれるのが、さらなる「外注」だ。重層的な発注構造、いわゆるゼネコン型の発注構造をイメージしてもらうと、ちょうどいい。

一次請けのベンダーは、リスクヘッジとして二次請けにも請負を強要するため、二次請けは余計なことをせず、契約内容や指示されたことだけを忠実に行うようになる。

二次請けの社員は優秀であっても、プロジェクト全体を仕切るような上位ポジションに就けるわけではないので、モチベーションはなかなか上がらない。こうして、プロジェクト全体を仕切るような少数の有能な集団以外の大多数のシステムエンジニアには、指示待ちの文化が蔓延してしまうのだ。

DXが想定するような「社外ユーザー向け」のシステムは、それが成功した場合に会社にもたらす利益は極めて大きい。しかし、基本的に人月単価に基づいて発注される現在の業界の仕組みでは、ベンダーやその社員がシステム開発の成功のビジネスとしての果実を受け取ることはない。

外注先に至ってはなおさらである。日本におけるシステムエンジニアの給与水準はアメリカより低いと言われるが、その原因はここにあるだろう。これでは、いいシステムを開発しようという意欲が起こるわけがない。

トップだけ外から連れてくるのでは不十分

このような現状を踏まえて、日本企業はどのようにしてDXに取り組めばいいのだろうか。

DXにあたり、自社のデジタル関連の企画力を向上させる策としてCDO(Chief Digital Officer)を社外から招聘する動きがあるが、それだけでは不十分だということは、今までの考察からもわかるだろう。トップだけ連れてきても、そもそも自社にシステムエンジニアを抱えなければ、開発や運営という実現力が伴わないからだ。

日本にも楽天やヤフー、DeNA、エムスリーなど多くのデジタルネイティブ企業があるが、これらの企業では例外なく自社内でシステム開発を行っている。これは、デジタル企業として必須の条件だ。

このように述べると、それらの企業はITサービスを本業とする企業なのであり、自社とは異なるという反論をよく受ける。しかし、考えてみてほしい。DXを行い、デジタル技術を競争優位に生かしていくということは、自社もITサービス企業の仲間入りをするということだ。そこをまだ、多くの企業が理解していない。

壮大な取り組みにはなるが、企業が本気でDXをやろうとするならば、自社でシステムエンジニアを雇い、事業部に配置するとともに、人材育成を行う必要がある。

請負型のSIを行ってきた要員は指示待ち文化に染まってしまった人も多いので、デジタルネイティブ企業やITベンチャー出身者が採用のターゲットになるだろう。

自社でシステム子会社を抱えている企業は、これを活用することも一案だ。ただ、その位置づけはもはや「子会社」ではなく、給与体系を見直し、事業部とのチーミングなどへと組織を変更しなければならないだろう。

いま「DX」と口にしている企業の数年後は、これらの構造問題を理解するか、実行するか、それだけの本気度を持てるかどうかで決まるだろう。

今枝 昌宏 エミネンス合同会社代表パートナー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授経営学研究科長

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いまえだ まさひろ / Masahiro Imaeda

愛知県生まれ。PwCコンサルティング、IBM、RHJI(リップルウッド・ホールディングス)などを経て現職。現在は、コンサルティングと研修事業を営む企業を経営するとともに、ビジネス・ブレークスルー大学大学院で「現代版企業参謀」「デジタル時代の経営原理」の講座を担当。ビジネスモデル論、サービス経営、デジタルビジネスなどを専門とする。
著書として『デジタル戦略の教科書』(中央経済社)『ビジネスモデルの教科書』『ビジネスモデルの教科書【上級編】』『サービスの経営学』『実践・シナリオプランニング』(いずれも東洋経済新報社)『実務で使える戦略の教科書』(日本経済新聞出版)などがある。
 

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