エンジン開発で結束、国内メーカーの危機感 乗用車メーカー8社が研究の共同組織を発足

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より深刻なのが、もう一つの目的として掲げる大学との産学連携強化と研究者・技術者の育成が示す、エンジン開発の脆弱化の問題だ。5月19日の発足式に出席した、大聖泰弘・早稲田大学理工学術院教授は「ここ20年の間、日本で大学で、エンジンの本格的な研究は行われていない」と述べ、日本のエンジン開発の実情に危機感を示す。

激化する主導権争い

各社の研究開発トップも「現時点では日本メーカーのエンジン性能は世界トップクラスだが、エンジンを学ぶ学生は急激に減っている。このままでは開発力が維持できない」と異口同音に語る。あるメーカーの幹部は「日本の産業政策・科学技術政策は、エンジンをいずれ廃れる技術として軽視してきた。メーカーも電動技術を強調しすぎた。結果、若者のエンジン離れを招いてしまった」と悔やむ。

だが、電動技術の普及は想定より進まず、「当面はエンジンの高性能化が自動車の動力の中心的な役割を果たす」(大津・AICE理事長)見通しが強まってきた。言い換えれば、日系メーカーの読みとは裏腹に、電動化技術でのアドバンテージよりも、エンジン開発力の停滞がよりクローズアップされる状況になってきたともいえる。大津理事長は「内燃機関の燃費や排ガスの規制基準では、内燃機関開発に力を入れてきた欧州の基準が新興国にも広がりつつある。今、内燃機関の開発力を強化しなくては、欧州勢に主導権を握られてしまう」と言う。

実質実効レートで見て史上最安という円安もあり、過去最高の好業績を謳歌する日本の自動車業界。だが「海外勢に主導権を奪われて一気に崩壊した電機業界の轍を踏まないとは限らない」(大手メーカー幹部)という危機感も漂っている。

丸山 尚文 東洋経済 記者

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まるやま たかふみ / Takafumi Maruyama

個人向け株式投資雑誌『会社四季報プロ500』編集長。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長、通信、自動車業界担当などを経て現職

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