ANAとJAL「希望退職」実施をめぐる決定的な差 両社の対応がわかれた「2つの要因」とは?
ついに雇用維持の限界がきた。ANAホールディングス傘下で国内航空最大手の全日本空輸は10月7日、退職金の割り増しによる希望退職の募集を労働組合に打診した。2013年度には同様の条件で希望退職を募り40人が応じたが、今回の募集人員の規模に定めはない。
7月末の決算会見でANAの福澤一郎常務は「雇用を守りながらこの危機を乗り越えるという基本方針は変わっていない」と語っていた。だが、本格的な航空需要の回復期が見通せず、ついに方針を転換した。
今回、希望退職のほかにも、今冬の一時金をゼロとすることや、一般社員の月給の減額も提案。夏季一時金が従来比50%減となったこともあり、社員の年収は前年比約3割減となる見込みだ。ほかにも、スキルアップなどの条件付きだった最大2年間の無給休業制度を、事由を問わない形に切り替える。
JALは人員削減を否定
全日本空輸は2020年3月末時点で1万4830人の従業員を抱える。ただ、新型コロナウイルスの影響で4~8月までの旅客数は国際線で前年同期比96.3%減、国内線も同82.2%減と大きく低迷している。
ANAの資金総額は2020年6月末時点で現預金と有価証券、融資枠を合わせて1兆円を超えるが、前2020年3月期決算をもとにすると、固定費だけで月に約800億円の現金が流出する。今第1四半期(2020年4~6月期)だけで1088億円の純損失を計上し、純資産9743億円の侵食も進む。
ANAが人員削減に踏み切る一方、気になるのはライバルである日本航空(JAL)の動向だ。同社の赤坂祐二社長は、奇しくもANA内で希望退職が提案された同日に開かれた定例会見で、人員削減について「まったくそういう考えはない。必ず航空需要は戻るので準備をしっかりする」と雇用維持を貫くと明言した。
2社の対応がわかれた要因は大きく2つある。まずは財務格差だ。JALは2010年の経営破綻後、5215億円の債務免除で財務の健全化が進んだ。6月末時点でANAの有利子負債は1兆3589億円、自己資本比率は33.9%であるのに対し、JALはそれぞれ5046億円、45.9%と差がある。
とくにJALは、1年以内に返済や償還が必要な短期の有利子負債が6月末時点で507億円と非常に小さい。2021年3月期からIFRS(国際会計基準)に移行していることもあり、「自己資本比率は日本基準だとさらに8〜9ポイント高い」(JALの菊山英樹専務)という。
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