古くさい野球界が、やっと変わり始めた 侍ジャパンが打ち破る、プロ・アマの壁

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足し算ではなく、かけ算のレベルアップ

そうしたプロが誇る匠の技は、アマチュアも伝承すべきものだ。東京六大学は60周年を記念し、2010年から毎年、関東で巨人OB、関西では阪神OBを招き、大学生がプロから技術指導を受けられる特別講座を主催している。全国から希望者がやって来て、毎年20人ほどが参加するという。

今季、広島カープに入団した九里亜蓮は昨年春、この講座で宝刀に磨きをかけた。講師の鹿取が「投げたい変化球はある?」と聞くと、久里は「チェンジアップです」と答えた。鹿取はサークルチェンジの握りを教え、その有効性を説明した。

「大学生もボールの握り方くらいは知っています。だから、どこに力を入れて、なぜこの球が効くのかを教えてあげる。『落ちなくてもいい。君のストレートは速いのだから、腕を振って、遅いボールを投げれば打者はタイミングが外れるよ』って。『親指の押し込み方が違うから、君のカーブは曲がらないんだよ』とかね。大学生は『あっ、曲がった。俺のカーブ、曲がるわ』ってなるけど、曲がるように教えているからです(笑)」

九里や鍵谷陽平(現日本ハム)、それ以前には野村祐輔(現広島)が匠の教えを受け、技術に磨きをかけた。参加者はプロを目指すようなトップクラスだけではない。数年後、高校野球の監督になりたい者もやって来る。彼らにも、鹿取や元プロは技術を惜しみなく伝授する。参加者からその教え子たちへとノウハウが伝播していくことで、野球界の裾野が広がっていくからだ。

「学校の指導者に教えてもらっているプラスアルファで、僕らが技術を教えると、伸び方が速くなると思う。今までは足し算だったのが、かけ算になる。そうしていくのが楽しみです。正しい技術を身に付ければケガをしなくなり、レベルが上がっていく」

中学生からのエリート教育

かつて高校野球連盟がプロを受け入れてこなかった理由のひとつとして、アマチュアリズムが背景にある。たとえば、資金力のある私学が次々と元プロを指導者として呼べば、公立校との差はみるみるとつきかねない。「競技における平等な条件の保障」というアマチュアリズムが、崩れる可能性が確かにある。

しかし、大きな組織が向上を目指す際、エリート教育は不可欠だ。ボトムアップも必要だが、プルアップが可能性の枠組みを広げていく。

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