動き始めた「サハリンからパイプライン」構想 国富流出阻止が喫緊の課題

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さらに、大型設備投資を前提とするため、また日本にとっては安定供給が重要になるため、20~30年といった長期契約を結ぶことになり、価格は常に国際価格より高めに設定されることになる。震災後のように原発が停止したままだと、長期契約外のスポット価格での調達をせざるを得なくなり、ますます割高な価格で買う羽目になる。

価格交渉の手持ちカードに

だが、パイプラインによる天然ガスという新たなエネルギー調達手段を持てば、LNG価格交渉に当たって手持ちカードが増えることになる。価格は、ガスプロムとの交渉次第だが、欧州向け価格10ドルと同程度であれば、現行価格と比べても大きなメリットがある。エネルギー調達価格総額を大きく引き下げることができる。

すでにLNG基地2つが稼働するサハリンを起点とするが、天然ガスそのものはコビクタやチャヤンダなど大陸のガス田がメイン。埋蔵量は4兆立方メートル、全世界需要の400年分とも言われる大ガス田だ。2016年にはチャヤンダから、サハリンまで敷設済みのハバロフスクにつながる。

世界平和研究所の藤主任研究員は、供給者としてのロシアへの懸念は低いと見る(撮影:大澤誠)

ウクライナ問題などもあり、供給者としてのロシアを政治的な側面から懸念する向きもある。が、「エネルギー資源はロシアにとって貴重な外貨獲得手段。過去40年のEU向けの供給状況を見ても、信用を失うようなことはしない」と、世界平和研究所・主任研究員の藤和彦氏は言う。

ウクライナ問題をきっかけにEUとの距離が生じている現在、安定的な需要地確保はロシアにとって、最重要ミッションだ。5月20日に予定されているプーチン大統領の訪中は、長年懸案となっていた中国への天然ガス問題の解決が大きなテーマとみられている。石炭による公害に悩む中国にとっても、比較的クリーンなエネルギーである天然ガスへの転換はひとつの解決策となるだろう。

そうなれば日本にとっては、中国経由のパイプラインも選択肢の一つとなりうる。だが、中国との関係を考えると、それこそ政治的なリスクが大きすぎる。むしろロシアと直接つなぐほうが、リスクを抑えられると見るのが自然だ。

再生可能エネルギーでは当面のエネルギー需要を満たすことができない、ということはすでにわかっている。国富流出の長期化を防ぐためにも、天然ガスパイプラインの敷設は喫緊の課題といっていいだろう。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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