知ったらびっくり!?公的年金の「3号分割」 「女性と年金」の未来はどうなっていくのか

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ちなみに、離婚分割には、問答無用で分割される3号分割とは異なる合意分割もある。この場合、夫婦ともに厚生年金に加入している期間のあり方は、婚姻期間中の2人の厚生年金の2分の1を上限として双方の合意が必要となり、もちろん分割しないという合意もありえ、有無を言わせぬ3号分割とは性質が違う。

少なくとも言えそうなことは、こうした3号分割、合意分割という離婚分割の知識を夫婦で共有することは、夫婦間のバーゲニングポジション(交渉上の地歩)に少なからず影響を与えそうだということである。

もっとも、3号分割という制度について知識が普及したからといって、女性からの離婚の申し立てが増えるかどうかはわからない。というのも、遺族年金というのが存在するからである。

仮にここに登場する人たちが、経済学の言う「合理的経済人」であり、損得のみで行動すると仮定すれば、この人たちが離婚をして得をするか損をするかは、遺族年金という制度を詳しく見ないと判断することが難しい。このあたりは、皆さんの学習に委ね、ここでは多くを語らないでおこう。

第3号の制度ができた時代背景

ところで、1985年改革では、被用者年金における既婚者の定額に相当する部分を基礎年金2人分と読み直すことにより、第3号被保険者という名称での女性の年金権の確立と(それまでは皆年金ではなかった?)、単身者の定額部分の半減が実現できた。このとき、新制度における被扶養配偶者は、順番からいくと第2号になるはずだったらしいが、それはまずいかもしれないとの検討の末(?)、第3号に落ち着いたというエピソードもある。

ときどき、単身者と比較すれば第3号被保険者のいる世帯は恵まれているという話を聞くこともあるのだが、あの時の改革は、単身者の定額部分を半分にすることが目的であり、その目的自体は、社会保障としての公的年金としては妥当であったろう。

そうしたことは民間保険ではありえない話だが、貧困に陥るのを防ぐ助け合いのための社会保障としての公的年金では、国民年金保険料の産前産後期間の免除制度を設けるために第1号被保険者の保険料を100円高くするなどということも、大いにウェルカムの話となる。もちろん、民間保険ではありえない。

1985年の改革時、厚生省の隣の労働省で男女雇用機会均等法が準備されていて、この法律は1986年に施行されている。1985年年金改革を進めていた人たちは、均等法施行後は女性の社会進出が進み、第3号被保険者は臨時の制度、「つなぎ的なものであり、経過的なものになるだろう」と考えていたようである。しかし、労働市場の改革は順調には進まず、第3号被保険者制度は、不公平、女性の社会進出を阻むものとして批判を受けていくことになる。

もし仮に、1985年の第3号被保険者制度ができるときに、3号分割を法案に入れようとしていたらどうなっていただろうか。

配偶者である妻の家事労働、子育ては当然であり、感謝するということをあまり理解できない人が多かった時代であったろうから、俺の年金を減らして女房に渡すなぞ許さんという人たちが永田町あたりに大勢出てきて、1985年の年金大改革の足を引っ張ることになっていたのではないだろうか。2004年に3号分割を導入したことでさえ、この国の風土を考えると、大きな改革をやったものだと感心している。

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