「外国人労働者=苦労人」と思う日本人の誤解 異国の自由を謳歌するベトナム人たちの生き様
この日は平日の夕方だったが、それでもベトナムの若者たちで店は7割がた埋まっている。見たところ店員もベトナム人のようだ。外国人がどうのというよりも、その若々しさにアウェー感を覚えてしまう。
おじさんがお邪魔することにやや申し訳なさを感じつつも入ってみれば、そこはなんだか高校か大学の部室のようだった。屈託なくしゃべっている女子のグループ、スマホに夢中になっている男子たち、それに奥のテーブルではギターを弾いて歌っている4人組。思い思いにこの場所で時間を過ごしている。誰もがきっと、母国ではほとんど着たことがなかっただろう厚手の服をまとっているが、けっこうおしゃれだ。それもこの寒い異国での楽しみのひとつに違いない。
日本人の店ではなかなか見られない満面の笑みの店員が、そっと運んできてくれたのは、店名にもなっている「エッグコーヒー」だ。カップの下の部分にはブラックコーヒー、その上にはふちまであふれそうに盛られた泡が乗っかり、二層になっている。
そして泡の上に描かれた、かわいらしいラテアート。だからずいぶんと時間がかかっていたのか。ラテアートが完成するまで根気よく待つのも店のスタイルのようだ。で、この泡は卵黄と練乳とが混ぜられているとかで、卵の風味がほんのりと甘い。ブラックコーヒーと少しずつ溶け合わせて、味の変化を楽しむのだ。
ハノイ名物のこのコーヒー、日本ではこちらのお店がはじめて出したのだという。そのコーヒーを少しずつ舐めるように飲みながら、おしゃべりをし、テレビで流れているベトナムの番組に見入り、ヒマワリの種をぽりぽりかじって、またギターをかきならし、声を張り上げて歌う。
そんなひとりに、話しかけてみた。
日本に来て3年になるチャンさん
「ほとんど毎日、ここに来ているんです。この店に来れば、誰か友達がいるから」
そう笑うのはチャン・トゥン・ドゥックさん、27歳。革ジャンの似合うイケメンであった。日本に来て3年、日本語はまだたどたどしいけれど、なんとかこちらに伝えようとする熱意がこもる。
「ハノイのそばの、ハイフォン出身です。子供の頃から、日本の漫画を見て育ったんです。とくに『NARUTO』が好きだった。だからいつか、日本の文化に触れてみたかった」なんて優等生的なことと言いつつ、「でも『ワンピース』は長すぎるよ。早く話をまとめたほうがいい」と苦言も呈する。
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