石炭火力発電所の休廃止政策がどうにも甘い訳 電力改革の現状、送電線空き容量は改善の兆し

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送電線がいつ混雑するか、いつ出力を抑制しないといけないか、わからない。すると、金融機関は再エネ事業者への融資に対して慎重になってしまいます。問題は、通常、混雑はありえないという前提で送電線が運用されてきたことにあります。

雷とか地震とか、緊急時に混雑が起きる場合、出力を止めることを求めるということは、昔から接続契約に書いてあります。ところが平時には、混雑が起きそうな気配があったらすぐに送電線を増強するということになっている。契約してもらったからには、事故でも起きない限り、迷惑をかけませんというのが、先着優先の考え方です。

新しく申し込みに行ったら、「実はあなたが申し込むと最悪の状況を考えたときに混雑が起きる可能性がある。送電線を増強する必要があるので、あなたがお金を出しなさい」と言われる。発電事業者とすれば、巨額の負担金が必要なら、頑張って発電所を作って送電線に接続しても仕方がない、ということになる。そもそも競争の土俵にも乗れません。

山家氏の近著『日本の電力ネットワーク改革』(インプレスR&D)

――山家さんら京大再エネ研究グループは、送電線の空き容量問題を提起しました。安田陽教授による「送電線は行列のできるガラガラのそば屋さん?」という分析結果の発表はインパクトがありました。

山家:そうです。経産省も送電事業者もルールの弾力的運用を考え始めました。その中でも、東京電力パワーグリッド株式会社(2015年4月に設立、東京電力ホールディングスの子会社)が2019年5月に発表した方式は際立っていました。

千葉県房総方面から東京都心方面に至る送電ルートについて、実潮流を見て向こう1年間の1時間単位のシミュレーションを行った。新たな試算方法を採用したことで、大きな空き容量を確保できることになりました。この方式が広がれば「空き容量問題」はかなりの部分、解消するでしょう。しかし、政府がこの方向を目指しているのか、まだ確信できません。

石炭火力退出は、思い切った政策転換とはいえない

――梶山経産相が発表した「非効率な石炭火力発電所をフェードアウトさせる方針」をどう見ますか。非効率な石炭火力の9割、100基程度が休廃止へ、と大きく報道されました。

山家:必ずしも思い切った政策転換ではありません。2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画にすでに明記された方針です。フェードアウトは廃止だけでなく休止も含み、ドイツ、イギリスが全面的に石炭火力発電を廃止すると決めているのとは対照的です。

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