地方を強く、JR東日本「ローカル線戦略」の全貌 電気式気動車を各地に配備、無線信号の実験も

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一般の携帯無線を活用することから災害時などに通信異常が起きた場合には、自動的にブレーキをかける、踏切の警報を鳴らすといった対策が施されている。列車が停止する可能性もあることから本数の少ないローカル線区が選ばれた。踏切制御の試験を2021年1月まで実施、その後、列車の速度制御に関する試験も行い、試験結果の評価を行った上で、2024年度の導入を目指す。

交通系ICカード「Suica(スイカ)」については、ローカル線区においても一段の普及を狙う。

QRコードリーダーの付いた自動改札機。Suica対応改札機も進化を続けている(記者撮影)

その場合ネックになるのはスイカ対応の自動改札機の設置費用だ。現状のスイカ対応型自動改札機は、乗降客が多い駅での使用を前提にしている。大勢の利用者が早足で改札機を通り抜ける間に、改札機に設置されたスイカ端末が瞬時にデータを読み取り、運賃を計算し、決済を行う。この処理に時間がかかると改札機の前で利用者が滞留してしまうため、大量のデータを高速で処理する性能を必要とする。自動改札機の1台当たりの価格は数百万円~1000万円台ともいわれる。

しかし、利用者の少ない地方の駅でそこまで高性能な改札機は必要ない。そこでJR東日本は、クラウド技術を用いるなどの工夫を行い、改札機側で高度な処理をする必要がない簡易版システムの導入を検討中だ。改札機の導入コストを引き下げることによって、スイカが利用できる駅を地方に広げようとしている。

コロナ禍でも成長投資は継続

JR東日本は9月16日に2020年度の設備投資計画を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大によって鉄道利用者が激減、同社の収益も落ち込んでいるが、2020年度の連結ベースの設備投資額は前期比300億円減とはいえ総額7110億円という大規模なものだ。

「維持更新投資については、安全の確保を前提にした上でコストダウンをした」(同社)というものの、収益力の向上につながる成長投資は着実に実行したいという。

地方における車両、信号システム、スイカなどの投資が進めば、JR東日本のローカル線区の収益力改善につながる。新型コロナの感染拡大が長引いて同社の経営がさらに悪化し、今後の設備投資に影響が出ないことを祈るばかりだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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