東海林さだお「ビールのつまみは枝豆に物申す」 勇猛をふるって全国民的合意に異を唱えたい

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みんないつのまにかそう思いこまされているだけではないのか。剝いてあるのを大皿に盛って、それをみんなで手摑みで食べる。いっぺんに3粒も4粒も口の中に放りこむ、これはこれで案外いいんじゃないの。

それより何より、サヤから手と歯でひしぎ出すあの所作、わたくしにはあれがどうにもいじましく思えてならない。せこくて貧乏くさくてみじめったらしい行為に思えてならない。みんな何とも思わずに、何の考えもなくあれをやっているが、あれは紳士のやるべき行為ではないのだ。

ヘギヘギと小刻みな動きで食べるなんて

ああ、今回はどうもいかんなあ、過激でいかんなあ、やっぱり石もて故郷を追われるなあ。

いいですか、あなたがいつも何気なくやっているあの行為をここで再現してみますよ。

あなたは大皿に盛られた枝豆のサヤを1個取り上げる。取り上げたサヤを口のところへ持っていく。2個入りのサヤを親指と人差し指でタテにはさみ、上のほうの豆の下部の位置を確認しつつそこのところへ上の歯と下の歯をあてがう。

(イラスト:東海林さだお)

ここまでは特にどうということはないのだが、ここから先がいじましくなる。せこくなる。みじめったらしくなる。指で豆の尻を押し出しつつ、同時に歯もヘギヘギと小刻みな動きをして豆のずり出しをはかる。

このヘギヘギのとき、どうしても下あごは突き出し気味になり、受け口っぽくならざるをえない。ヘギヘギというかアグアグというか、この小刻みな動きのときは当然歯は少し前に出ており、中にはこの動きの速い人がいて、こういう人を見ているとなんだかリスが両手でドングリを持って歯を剥き出して齧っているように見えてくることがある。

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紳士としては厳に謹まなければならない行為と言わざるをえない。

さっき居酒屋に入って行った「とりあえずビールと枝豆」のサラリーマンの一団は、枝豆が到着すると、5人なら5人全員がリス化してヘギヘギ、アグアグをやっているわけで、よく見ると居酒屋の中はリスだらけ。

あ、またしてもまずいな。
みんなに枝豆ぶつけられるな。

東海林 さだお 漫画家、エッセイスト

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しょうじさだお / Sadao Shoji

1937年、東京都生まれ。漫画家、エッセイスト。早稲田文学露文科中退。1970年『タンマ君』『新漫画文学全集』で文藝春秋漫画賞、1995年『ブタの丸かじり』で講談社エッセイ賞、1997年菊池寛賞受賞。2000年紫綬褒章受章。2001年『アサッテ君』で日本漫画家協会賞大賞受賞。11年旭日小綬章受章。

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