民放が「ネット同時配信」でもたつく根本理由 日テレは「トライアルで開始」も、課題は山積

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

民放各社にとっては、このコストに見合う広告収入を得られるかがポイントになるわけだが、そこには疑問符が付く。「ネット同時配信をするからといって、スポンサーに倍の広告料を払ってくれとは言えない」(別のキー局局員)。スマホやタブレットで見られる環境を作ったとしても、コンテンツが魅力的なものでなければ視聴者も増えないだろう。

そうしたコストとの兼ね合いもあり、民放各社はNHKと異なり、放送をつねに配信する「常時同時配信」には及び腰だ。「あくまで採算が見合う需要の高いプライムタイムなどでのみ配信することになる」(キー局局員)。日本テレビの配信トライアルの時間が区切られていたのも、そういった事情があるためと考えられる。

ローカル局の広告収入が減る可能性も

ネット同時配信の難しい点は、キー局と系列ローカル局との兼ね合いにもある。日本では現在、関東など一部を除き、各キー局系列で都道府県や一定地域ごとにあるローカル放送局がテレビ放送を行っている。

しかし、ネットには本来こうした垣根がない。仮にネットでキー局の放送を全国で視聴できるようになれば、ローカル局の視聴率、独自に契約している広告主からの収入が減少する可能性もある。

あるローカル局首脳は「(ネット同時配信を行うなら)県域制限を行うことは絶対だ」と主張する。県内におけるネット同時配信は県内のローカル局に任せてほしい、という声も根強い。ただ、キー局より厳しい経営環境が続くローカル局で、先に示したような同時配信に対応するだけの人員・費用を捻出できるのかは疑問だ。

こうした事情を、キー局も簡単に無視するわけにはいかない。ローカル局がさらなる苦境に陥れば、その影響はキー局にも跳ね返るからだ。減っているとはいえ大量の視聴者を抱える全国のテレビ放送網を失うのは困るし、キー局やその親会社である新聞社がローカル局に出資しているケースも少なくない。

日本テレビのトライアルは、そうした不安要素について検証するための材料集めの機会になるだろう。増えるコスト、地方局への打撃など、負の面を補って余りあるほどの効果を生み出せるのか。同時配信を実施することは「既定路線」と目されるが、その道のりは決して平坦ではない。

井上 昌也 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事