日本で中国の影響が限定的である要因としてスチュワート氏は、日本固有の事由と他国も模倣できる事由と2つに分けられる。日本固有の事由については、それを「閉ざされた民主主義」(closed democracy)と総称しつつ、
②日本の経済・文化的な孤立
③国民の政治的無関心と実質的な単独政党制
④厳しく統制されたメディア
を挙げる。
後者の他国も模倣できる事由としては
(2) 日本自身による対外PR攻勢
(3) 戦略分野への投資規制や外国人の政治献金の禁止といった法整備
を挙げている。
変動する日本の対中親近感
スチュワート氏の報告書は、多くのインタビューを行い多数の事例を紹介した価値のある報告書だが、分析に疑問を感じる部分もある。とくに、中国の影響が限定的である日本に固有な事由の総称として「閉ざされた民主主義」と指摘するが、日本の民主主義が閉ざされたものとの評価には議論の余地があろう。
また固有な事由の1つとして、長い対立の歴史に基づく中国への警戒を挙げるが、対中警戒感はつねに高かったわけではない。日本の対中世論について言えば、日中国交正常化後は長期にわたり良好だった。しかし、それは天安門事件、尖閣問題を含む対日強硬策の中で大きく悪化した。
世論調査で確認しよう。総理府(現・内閣府)の「外交に関する世論調査」の第1回目が行われた1978年は、日中平和友好条約が締結された年だが、日本人の中で「中国に親しみを感じる」は62.1%と高かった。その後1980年代には、日中友好の雰囲気の中で「親しみを感じる」はさらに高まり70%前後で推移。しかし、1989年6月の天安門事件の影響を受け、同年10月の調査では、「親しみを感じる」は前年度の68.5%から51.6%に急減した。
その後はこの比率はさらに減少、2000年代中頃は40%弱で推移した。1990年代から2000年代にかけての低迷は、中国における愛国主義運動と、それに対応する日本における謝罪疲れの中で「歴史問題」が繰り返されたことも要因であろう。
さらに、尖閣問題での中国の攻撃的姿勢が目立った2010年の調査では「中国への親しみ」は20.0%まで大きく低下(同年の「親しみを感じない」は77.8%に上昇)。その後「中国への親しみ」は現在まで低迷が続いている。
以上を踏まえれば、日本の対中警戒感は天智2年(西暦663年)の「白村江の戦い」以来の歴史に規定された不変のものではなく、時代や状況により変化しうる。したがって、「嫌中感」に頼らないシステムとしての「中国の影響力への耐性」を確立することが重要であろう。
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