カブトムシの「大きさ」あんなにも差が出る理由 成虫の大きさのカギをにぎる幼虫時の過ごし方

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それは、葉っぱの中に、イモムシの成長を早める成分を含む、という戦略です。この葉っぱを食べたイモムシは、ふつうより早く脱皮を繰り返すようになります。そして、ふつうの幼虫に比べて葉っぱを十分に食べることなく、早く大人のチョウになってしまうのです。

葉に毒が含まれているのであれば、前述のとおり、イモムシも必死になって、進化のなかで対抗策をとります。しかし、イノコヅチの場合は、食べてもちゃんと成長して大人になれるのですから、イモムシも文句はありません。成長が早まる葉を喜んで食べ、チョウになって飛び立っていきます。こうして、イノコヅチは、やっかいなイモムシを早々に追い払ってしまうのです。

小さく育つ成虫の末路

早く成虫になることは、よいことのようにも思えます。しかし、幼虫であるイモムシにとっては、あくまでたくさん食べることが仕事です。たくさん食べて、たくさん栄養をつけることが、立派なチョウになるために必要なのです。十分に葉っぱを食べることができずに、早く大人になってしまったイモムシは、先ほどのカブトムシの例と同様、小さな成虫にしかなれません。

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このように、しっかりとした子ども時代を過ごすことができず、こぢんまりとした小さな大人になってしまった成虫には、卵を産む力はありません。こうしてイノコヅチは、イモムシを退治しているのです。

「早く大人になってしまえ」。それが、イノコヅチの恐ろしい作戦です。

もしかしたら、私たちは知らず知らずのうちに、子どもたちに対して同じようなことをしてはいないでしょうか。もし、大人びた「小さな大人」のような子どもたちが増えているとしたら、それは何だか恐ろしいことです。しっかりとした大人になるためには、しっかりと子ども時代を過ごすことが大切なのです。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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