江崎:はい。たちまち周りから罵声が飛びました(笑)。「おまえは関係ないだろ! 経産省はベンチャーに補助金を出してりゃいいんだよ!」と。2回目に会議に行くと、私の席には厚労省の方が座っていました(笑)。仕方がないので、バックシートに座り、そこから手を挙げて発言しました。
三宅:ありえないことしますね(笑)。
江崎:3回目の会議では立ったまま発言を続け、最終的に私の主張を踏まえて取りまとめ案が修正されました。会議が終わるや厚労省の幹部が飛んで来て、「おまえ、ふざけるなよ!」と言ってつかみかかられました(笑)。それが再生医療制度の整備に向けたスタートでした。
三宅:とんでもないデビューですね。名刺交換してもらえないのもわかります(笑)。
江崎:ただ、私が主張したのは、「日本の高い技術力を生かすことができれば、質の高い再生医療が、もっと安全に、もっと安いコストで提供できるのに、今の制度ではそれができない。規制緩和ではなく、再生医療に適した制度を作るべきだ」ということです。
三宅:その点は厚労省も理解できるのではないですか。
江崎:おそらく厚労省にしてみれば、制度が合っていないことはわかっていたと思います。ただ、薬害エイズ事件をはじめとして、過去の薬害問題の苦労を知らない部外者に、薬事制度に意見されたくないという気持ちだったのではないでしょうか。手を挙げるたびに、「薬害を知らないやつは黙ってろ!」と言われましたから。
今では一緒にお酒を飲む仲に
三宅:厚労省の人たちは、本当はいちばんわかっているのだけど、しがらみがあって動けないということですね。
江崎:そこで私はエイズ患者の手記や、安部英帝京大教授の裁判記録を読み、薬害問題について勉強しました。おかげで医療行政の難しさが少しずつではありますが、わかってきたような気がしました。その後、厚労省への質問にもたびたび私が手を挙げて答えましたので、国会議員の先生方からはけっこう罵倒されましたね(笑)。
そんなことを一夏続けていたら、徐々に厚労省の方にも話を聞いてもらえるようになり、秋には一緒にお酒が飲める関係になりました。もちろん、厚労省の中でもなかなか心を許してもらえない部局もありましたが、いくつも資料や提案を作って相談に行き、冬になってようやく、「経産省がここまで考えてくれるなら一緒にルール作りをしましょう」となりました。
三宅:それで薬事法が改正され、再生医療新法ができたのですね。
江崎:ええ。これら2つの法案が閣議決定されたときは、閣議の直後に厚労省の医政局、医薬食品局の課長さんや室長さんたちがそろって私の部屋までお礼に来てくれました。これはうれしかったですね。以来、ずっといい関係で仕事をしています。
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